賃貸物件広告の間取り図の下に小さく「図面と現況に相違ある場合には、現況優先とします」や「現状渡しになります」と書かれていることがあります。
わざわざ明記してあることにより、逆に図面を優先することはあるの?何だかだまそうとしていない?などと思ってしまう人もいるようです。そこで、今回はこの「現状渡し」と「現況優先」の言葉の意味について考えてみたいと思います。
物件情報の図面と実際の部屋が違う?
賃貸物件広告にはたくさんの情報が含まれています。客向けの情報だけではなく不動産屋同士の仲介手数料に関することまで、あらゆる情報が凝縮されていると思っても過言ではありません。その中に「現状渡し」や「現況優先」という文言があります。
図面と現況に相違がある場合は現況を優先
「図面と現況に相違がある場合は、現況を優先します」と書かれていても、図面通りに建物を直すわけにはいかないのだからそれは当然だろう、と思うでしょう。特に大きな意味を持つものではない、と気にも留めないことも多いかもしれません。しかし、これが重要な意味を持つ場合もあるので注意が必要です。
そもそも賃貸物件の間取り図は、大抵その建物が作られた当時の図面を長く使い回ししていることが多いです。誰もがパソコンを扱える現在とは違い、昔は、図面作成に適した専門のソフトを扱える技術者に有料で作成してもらっていました。
プロが作ったのだから当然見栄えも良いし、お金がかかっているのだから、その図面を長く使いたいと思うのは無理ありません。その後、細かなリフォームがあっても、元々の図面にさらに有料で修正してもらうことはしないでしょう。そんなことでも図面と現況に差異が生じます。
ところが今は多少のパソコン操作の知識があれば、フリーソフトなどで簡単に作成できるようになっています。そんなことから、不動産会社の社員やパートなどが間取り図を作ることもあり、中には間違って作られたものが気付かないまま公開されていることもあります。
素人が作っているため図面が間違っていることもありますがご了承ください、とするよりも「現況優先」と但し書きをするわけです。しかし、本当に図面と室内の設備や配置が異なることもあるため、そこは用心すべきでしょう。
「現状渡し」や「現況優先」の意味とは
建物が古くなってくると、貸主は入居者を獲得するために、室内をきれいにリフォームしたり、時代に合わない部屋や設備を改修したりします。最初に作った図面とは多少異なる部分があっても、改良されているのだから文句はないだろう、とそのままの図面を用いることはあるかもしれません。そんなときにも、図面と実際の室内に差が生じることになります。
また、多少のキズや汚れなど、生活に支障のない範囲なら、全面的な内装工事を行わずに次の入居者募集をかけることもあります。築年数の古い物件などは古さが目立ちあちこちガタがきています。いずれ取り壊すつもりなら大掛かりな修繕などは行わずそのままの状態で貸し出す場合が多いです。そんなときに使われるのが「現状渡し」や「現況優先」です。
間取りや設備に変更があることも
他の理由でも図面と現況が異なる場合もあります。部屋全体のリフォームやリノベーションで、大きな改修工事で3DKの狭い和室を1LDKのおしゃれな洋室にすることもあります。そんな思い切ったリノベーションなら、むしろ昔の図面を使わずに、広々ときれいになった間取り図で客の目を惹き付けようとするでしょう。
そこまで大掛かりでない小さな補修や設備の入れ替えなどは、間取り図に即刻反映されないこともあります。現在の入居者から退去の申し出があると、不動産屋は内装工事が始まる前に入居者の募集をかけることがほとんどです。
そのため、内見をするのが内装工事後の場合は、当然、それまでに公開されていた間取り図とは違ってくることが考えられます。どのようなケースがあるのでしょうか。
和室だと思っていたらフローリングだった
古い物件では、設備を新しくしたり和室を洋室にしたりということはあり得ます。しかし単純に図面の間違いがあることもないわけではなく、フローリングの6畳だと思っていたものが実は畳の和室だったということも中にはあります。図面を作る際の単純なミスかもしれませんが、実際に住むつもりで内見をしている客にとっては大きな違いです。
単純に左右反転だと思っていたら実は違った
同じアパートやマンションでいくつかの空き物件があり、1つの募集広告に102号室70,000円、205号室72,000円、401号室75,000円など空き物件をまとめて募集していることがあります。しかし掲載されている図面は1つだけです。そのようなときには現況優先の文字が生きてきます。
なぜなら角部屋の作りは外側に出窓が設けられていたり、その間取りとは左右対称に反転するタイプの造りの部屋もあるからです。単純に左右対称の物件を思い描き、平らな壁だと思っていたが、実は柱が出っ張っていたということもあります。
クローゼットではなく押し入れだった
床がクッションフロアだったため、収納もてっきりクローゼットかと思っていたら、実は襖ではない引き戸の押し入れだったということもあります。図面から受ける印象と実際に行って目で見てみるとかなり印象が変わることもあります。
不当表示?おとり広告?トラブルを避けるために
現況優先の記載があったからと言って、客をだますための不当な広告なのではと勘ぐる必要はありません。ほとんどの図面にはそのような文言がついているからです。タテヨコの若干の縮尺率の違いなどで実際の物件と間取り図が違っていることもありますがご容赦ください、くらいの形式的なものであることが多いです。
内見はしておきたい、できなければノークレームで
現況優先の文字があるからと言って、どこが違っているのだろう、と躍起になって探すことはありません。実際に違いがなくてもそのように表示されていることが多いためです。しかし、ドアの開き方が反対だったり、浴槽が大きく見えたが実際はそうでもなかったり、と正確に寸法通りの縮尺にはなっていないこともあります。
事前に内見をしておけば図面との違いに気が付きます。しかし、内見をせずに物件の図面だけで選んで契約してしまうと、後で実際に室内を見てから違いに気付くことになります。そんなときは図面と違うからと言ってクレームを入れることができません。
納得がいかないときは契約しない
現況とは異なる部分を見つけたら、それは自分にとって住む上で絶対的なものなのか判断しましょう。他にも良い物件があるのならそちらにすれば良いわけです。現況と間取り図に差があったとしても、今までに見た中でその物件が一番良いと思えば契約すべきです。
現況優先の言葉がある以上、図面と実際が違っていたからと言ってクレームをつけるわけにもいかず、また家賃の値下げ交渉の材料とはなりにくいでしょう。よほどの違いがあるなら話は別ですが。納得がいけば契約する、納得がいかなければ契約しない、の二者択一になります。
万一トラブルになってしまったら
あまりにも図面と現況が違い過ぎることも稀にあります。
- 図面上では6畳の2部屋なのに、一部屋は4畳半ぐらいしかない
- 洗濯機置き場となっているのに水道の蛇口がないため使えない
- 図面ではベランダがあるのに実際はなく、窓も小さかった
- 角部屋の図面だったのに、実際は角部屋ではなく中部屋だった
納得がいかないこともあるでしょう。このような不動産屋と契約して、本当にこの先大丈夫なのかと不安を持つ人もいます。トラブルや疑問や悩みがあれば、下記の相談窓口で今後の方針を相談してみましょう。
参照URL:賃貸住宅に関する相談窓口
まとめ
間取り図は建築設計図と違い、寸法が正確でないことを理解しましょう。中には、設計の平面図をトレースした実際に近いものもありますが、多くは部屋の位置関係やつながりを分かりやすくしたイメージ図と捉えるべきでしょう。本当は柱の出っ張りがあり部屋の壁が平らでなくても、そこまでの技術がないと簡略化して長方形にしてしまうこともあります。
トラブルを防ぐためには、内見をして自分の目で確認することが欠かせません。あまりにイメージが違えば契約しない、と割り切った方が良いかもしれませんね。