私たちが住む日本列島は、今地震の活動期に入っていると思って間違いはありません。首都直下型地震や南海トラフ地震などがクローズアップされていますが、日本のどこに住んだとしても、そこに地震が来ないという保証はありません。
でも、いつ来るかわからない地震をただ恐れていてもしょうがありません。自分の身を守るのは自分自身なのですから、今自分にできるベストの備えをすることこそが減災への第一歩なのではないでしょうか。まずは、地震に強い家に住むことから考えてみましょう。
地震に強い家とは
日本は昔から多くの地震災害の被害にあってきました。そのため、どうしたら地震に強い建物が建てられるか、どうやったら一人でも多くの人の命が助かるのか、日々研究されています。
そんな日本の耐震技術の研究には長い歴史があり、「地震に強い建物」の研究が始まったのは明治時代でした。1891年、明治24年に濃尾地方で起きた直下型の濃尾地震がそのきっかけです。
西洋列強に追いつけ追い越せと、政府が富国強兵を国策に西洋化を進めていた真っ最中のことでしたが、濃尾地震では西洋から学んだ最新式だったはずの建造物が軒並み大きな被害を出し、地震国である日本では、地震がない国とは違う技術の研究が必要だということに気づいたのです。
以来、いかに災害被害をなくすかという研究は絶え間なく行われてきましたが、その間もたびたび大きな被害を出してきました。1923年の関東大震災や1968年の十勝沖地震など、大きな地震のたびに研究者たちが耐震基準の強化に取り組んできました。耐震基準の強化の歴史は、地震災害の歴史でもあります。
耐震基準の変遷
大地震があるたびに、より安全な建物にするために日本の耐震基準は変わってきましたが、近年、1978年の宮城県沖地震がきっかけで大きく変わりました。
ここはプレートとプレートの重なりに大きな力がかかっており、非常に短い周期で大きな地震を繰り返している地域ですが、1978年6月12日にはマグニチュード7.4の地震が発生し、死者28名、負傷者1,325人を出しました。これをきっかけにその3年後、1981年に一つの大きな転換が行われたのです。
それまでは震度5程度の地震に耐えうると考えられれば問題なかったものが、震度6強以上の地震でも倒れないと改正されただけではなく、地震が起きた時に家の中にいる人が安全を確保し、無事脱出できることも重要視されるようになりました。
一般的に1981年以前が「旧耐震基準」、1981年以降が「新耐震基準」とされます。つまり、住む家の耐震性を考えるなら、1981年以降に建てられた物件を選ぶことは一つに安心の目安になると思います。
耐震・制震・免震
今も地震に耐えうる建物の研究は日進月歩で進んでいますが、現代の耐震技術は「耐震」「制震」「免震」に大別されます。どれも似たような言葉ですが大きな違いがあるので、家を探す前に知っておきましょう。
耐震構造とは
地震の揺れのパワーに負けないだけの剛性を持った柱や梁を使用することで、建物全体を強くした構造です。言ってみれば地震のパワーに正面から立ち向かい、足を踏ん張っているような形ですね。
耐震構造の建物は阪神淡路大震災の時にその強さはある程度証明されましたが、揺れを直に建物に伝えてしまうため、特に高層階の揺れが激しく、建物自体は残っても倒れた家具の下敷きになったりして、多くの方が命を落としてしまいました。
また、揺れによって建物が激しく損傷し、せっかく地震で生き残ったのにその後住めない状態になってしまったこともありました。
制震構造とは
ダンパーという地震のエネルギーを吸収する部品を取り付けます。各階の天井部や、ビルの一番上の部分に取り付けると、風による揺れを吸収して低減すると共に、地震の揺れも吸収します。
免震工事
免震工事は、建物と地面の間に地震の揺れを吸収するような部材を挟むことで、建物自体の揺れを抑えます。間に挟むのは積層ゴムと言われる薄いゴム板と鋼板をミルフィーユのように何層にも重ねたものなどで、これが建物に地面からの揺れを伝わりにくくします。
現段階のおすすめは?
現段階の技術で一番信頼できるのは、免震構造だと思います。免震構造の建物は地震の揺れが3分の1から5分の1程度まで軽減されると言われており、建物が壊れにくくなるだけでなく、家具が倒れてくるのも防ぐので、さらに安全です。
それこそ大きな被害が出るような巨大地震はわかりませんが、そこそこ大きな地震でも、免震構造のマンションに住んでいると「テレビの地震速報のテロップを見るまで地震に気づかなかった」ということも耳にします。
かなり地盤の弱い埋立地に建っているマンションでも、免震構造の場合はほとんど揺れを感じないという人が多いため、地震が怖い人はまず免震構造のマンションを探してみてはどうでしょう。
限られた予算で地震に強い家を
きちんと免震工事で建てられたマンションは、必ずそれを売りにしているはずです。そして、そういうマンションは家賃もそれなりにするハイグレードな物件が多いでしょう。ちょっとその家賃では手が出ないという場合、リーズナブルな家賃でかつ地震に強い物件を探さなければいけません。
耐震補強は後付けでもできる
基本的に旧耐震基準と新耐震基準で地震に対する強度はまったく違いますが、耐震補強は後付けでもできます。たとえば、耐震金具を付けたり、筋交いやバットレスと呼ばれる補強用の壁を取り付ける、あるいは柱をぐるぐる巻きにして強度を高めることで耐震性は上がります。また、制震ダンパーは後付けすることも可能です。
これらの耐震補強工事は自治体からの補助も出ますが、基本的にやるかやらないかは大家さんの判断なので、借りる前に耐震補強の有無を聞いてみるのもいいでしょう。多少建物自体が古かったりして元々の耐震性はなくても、補強をすることで大地震を生き残った建物はたくさんあります。
構造的に強い建物を選ぶ
阪神淡路大震災の時、被害が大きかったのは「ピロティ」と呼ばれる、一階部分に壁が少なく駐車場などの大空間になっている建物でした。マンション全体の重量を壁ではなく何本かの柱で支えているわけですから、大きな地震の揺れによってピロティ部分の柱が歪み、その結果マンション自体の倒壊を招いたのです。
また、古いマンションであればへこみのない四角いオーソドックスな建物の方が、コの字やLの字など複雑な形のマンションよりおすすめです。
現在建てられる最新のものはエキスパンションジョイントという部分を結合部にとり、それによって大きな力がかかった時に建物を切り離して地震のパワーを軽減するしくみになっていますが、昔はこのエキスパンションジョイントがなかったため、地震には弱いことが予想されます。当然ですが、煙突のように細長い建物も、地震には強くありません。
地盤のいい場所に住む
大地震があった場所に行ってみると、ほんの数メートル違い、あるいはもっと言えば道一本隔てただけで被害状況がまったく違うことがあります。これは地盤の違いです。ずれる可能性がある活断層の上は、大きな震災被害が予想されます。
地中の活断層については、まだ正確に調べようがないため、わからないことが多いのですが、地盤が固いと言われている場所に住むというのも有効な自衛手段ではあるでしょう。
地震はいつか必ずやってくるものと考えておかなければいけません。そのくらい今の日本はいつどこで地震が起きてもおかしくない状況です。だからこそ、部屋を選ぶ際にもできる限り安全な物件を予算内で探すようにしましょう。