戸建て住宅を建てる場合の建築費を知りたいと思った場合、ネットで検索すれば、積水ハウスなら坪単価○○万円、タマホームだと坪単価○○万円というように、おおよその建築費を誰でもすぐに調べることができます。
しかし、アパートやマンションの建築費となると、いったいどれくらいが相場なのか、検討もつかないという人がほとんどではないでしょうか。
実際にアパート会社として有名な大東建託やレオパレスの坪単価をネットで調べても、戸建て住宅のように明確な金額が書かれているサイトはほとんどありません。
そこで今回は、実際にアパート建築会社で建築営業をしていた経験がある管理人が、アパートやマンションの建築費について詳しく解説します。
アパートやマンション建築での見積もり
アパートやマンションの建築では、同タイプのアパートやマンションだとしても、依頼する建設業者によって、まったく異なる金額になることがあります。
事情が複雑なので、まずは実際のおおよその建築費を見ていただき、それを元に解説してきます。
建築費の計算方法
建築費は、依頼する建設業者や、建てるアパートのタイプ(単身向け・ファミリー向け)などによって金額が大きく違うので、戸建て住宅のように一概に坪単価○○円程度とはいきません。(※坪単価で建てている業者もあります)
賃貸タイプ別のおおよその建築費相場
大手ハウスメーカー | 地元工務店 | アパート建築会社 | |
---|---|---|---|
2階建て単身者向けアパート(10世帯) | 6,000万円 | 3,800万円 | 7,000万円 |
2階建てファミリー向けアパート(6世帯) | 4,800万円 | 4,000万円 | 5,500万円 |
中高層マンション(7階建て20世帯) | 1億5,000万円 | 1億2,000万円 | 1億3,000万円 |
※2階建ては木造、マンションはRC造
上記の金額はあくまでも目安であり、管理人の経験から算出した金額です。
本来であれば、アパート建築会社は中高層向けマンションの建築はほとんど手がけていませんし、単身向けのアパートなども坪単価というより1ユニット(1部屋)○○万円という見積もり方法を採用していることが多いので、単純に比較はできません。
例えばですが、家賃保証があるレオパレスで、10世帯の単身者向けアパートを建築するなら、1ユニット(1部屋)450万円などで計算します。ですので、10世帯だと450万円×10世帯=4,500万円となり、そこに外溝工事費や設備工事費などの追加費用がかかってくることになります。
なぜこのような算出方法を採用するのかですが、それは家主にわかりやすく話しをするためです。
1部屋作るのに450万円かかるのであれば、その1部屋をレオパレスが1ヶ月37,500円で借上げれば、1年で37,500×12ヶ月=450,000円となります。この場合だと、家主に対して「450,000円×10年=450万円」なので、「わずか10年で減価償却できてしまいます」という営業トークができるわけです。
単身者向けよりファミリー向けが安いのは、単身者向けは1部屋ごとにキッチン、バスルームを設置しなければならず建築コストがかかります。しかしファリミー向けの2LDKや3DKであれば、和室や洋室だけの部屋もあるので、単身者向けのように1部屋あたりの建築コストがかかりません。
坪単価でみたとき、単身者向けアパートやマンションよりも、ファミリー向けの方がすごく安上がりに感じてしまうのは、このような理由があるからです。
建物の構造別の坪単価の違い
レオパレスのような一括借り上げ会社であれば、1ユニット○○円という見積もりをするのですが、地元工務店や大手ハウスメーカーなどは、やはり坪○○万円という見積もり方法を採用しているケースも多く見受けられます。
坪単価といっても戸建て住宅と同じで、木造や鉄筋コンクリートなど、各工法によって金額も大きく違います。2階建てアパートの多くは、木造か軽量鉄骨造となっており、マンションタイプの多くが鉄筋コンクリート(RC造)で建てられています。
そこでここからは、実際に坪単価がどれくらいになるのかについて話をしたいと思います。まずは、各構造別の坪単価についてまとめてみました。
木造アパートの坪単価
一般的な2階建てアパートや、ハイツタイプのアパートの多くが、こちらの木造系アパートになります。戸建て住宅と同じように、日本国内のアパートでは一番メジャーな工法として、多くの賃貸アパートで採用されています。
木造アパートといっても戸建て住宅と同じように「木造軸組工法」や「2×4(ツーバイフォー)」、「木質パネル工法」などがあり、地元工務店などは木造軸組、大東建託や東建コーポレーションなど、大手アパートメーカーは、2×4や木質パネル工法のアパートを採用しているケースが目立ちます。
それぞれの坪単価ですが、戸建てと同じく木造軸組工法が一番安価で、2×4や木質パネル工法になると割高となっていますが、アパートの外観だけでは、どの工法で建てられているのかほとんど見分けがつきません。
木造軸組工法のアパート
(出典:https://kaihatsu.uniho.co.jp/)
2×4工法のアパート
(出典:https://www.cknavi.jp/company-50/jirei-1.html)
一般低な坪単価
木造軸組工法のアパート | 約40万円~60万円 |
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木造2×4工法のアパート | 約55万円~75万円 |
木質パネル工法のアパート | 約60万円~75万円 |
軽量鉄骨造(プレハブ系)アパートの坪単価
木造アパートと同じく、2階建てや3階建てのアパートやハイツタイプに多い工法です。積水ハウスやダイワハウスなど、大手ハウスメーカーの賃貸向けアパートに多く採用されている工法でもあります。
ただし、鉄骨造の場合は3階建て以上になると軽量鉄骨ではなく、重量鉄骨造の建物が主流になります。
1階部分をコンビニなどのテナントにして、2階や3階部分を賃貸部屋として貸し出す場合などは、広い空間を確保できる重量鉄骨造で1階部分をつくり、2階や3階の居住空間を軽量鉄骨造にすることもできます。
軽量鉄骨造のアパート
(出典:https://www.daiwahouse.co.jp/tochikatsu/d-room/products/two_storey/gallery.html)
1階に店舗、2階と3階が居住用賃貸のアパート
(出典:https://www.daiwahouse.co.jp/tochikatsu/d-room/products/three_storey/dizzo_hv/index.html)
一般低な坪単価
軽量鉄骨造のアパート | 約55万円~70万円 |
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重量鉄骨造のアパート | 約70万円~85万円 |
鉄筋コンクリート(RC造)マンションの坪単価
鉄筋コンクリート(RC造)は、「耐震性」、「耐久性」、「防音性」などに優れているため、一般的に中高層マンションなどに多く採用されている工法で、分譲マンションの多くも、RCやSRC工法を採用している物件が多くあります。
賃貸物件の場合だと、やはり中高層マンションンに採用されることが多いのですが、耐久性が良く、修繕・補修など将来的なメンテナンス費用を抑える効果を見越して、2階建てや3階建ての低層賃貸物件に採用されているケースも稀にあります。
鉄筋コンクリート(RC造)のマンション
(画像:https://www.seiwa-stss.jp/product/ferroconcrete/frandir_aura.html)
一般低な坪単価
鉄筋コンクリート(RC造) | 約90万円~120万円 |
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アパマン経営での事業計画の立て方
アパート経営を事業として考えるとき、その目安となるのが利回りです。アパート経営に限ったことではありませんが、不動産事業ではこの利回りの数値によって、どれくらいの事業性があるのかを試算して検討することができます。
利回りとは、投資した金額に対する年間の収益率のことをいいます。
例えば1,000万円の投資に対して、年間100万円の収益があった場合の利回りは10.0%となります。
利回りの計算式
利回り=(年間収益÷初期投資費用)×100
アパート経営における平均的な利回り相場は、地域にもよりますが、都心部で10%~12%、郊外で7%~10%くらいだと言われています。利回りで10%を毎年達成できれば、初期投資費用は10年間で回収できる計算になります。
しかし利回りといっても、アパート経営には「想定利回り」、「表面利回り」、「実質利回り」という、3つの利回りがあることも覚えておきましょう。
想定利回り
常に部屋が満室の状態だと仮定して家賃収入を算出して利回りの計算をする
表面利回り
実際の家賃収入から利回りを算出する
実質利回り
実際の家賃収入に対して、管理委託費や火災保険料などの経費を差し引いて利回りを計算する
一般的に使われるのは、実際の家賃収入に対して利回りを算出する「表面利回り」ですが、アパート経営会社が事業計画として提示してくるのは、まだアパートが完成してない状態なので「想定利回り」ということになります。
この想定利回りの段階で、上記でも書いているように「都心部10%~12%」、「郊外で7%~10%」という利回りを下回るようでは、事業としてアパート経営するにはかなり難しいと判断できますし、そうなると金融機関からの融資も厳しくなることが予想できます。
家賃や修繕費の注意点
アパート経営では、目先の家賃収入とローン返済だけを試算するのではなく、10年後や20年先といった補修やメンテナンスの費用についても、最初にしっかりと試算計画しておかなければなりません。
しかし実際問題として、将来的にどれくらいの修繕費の予算組をしておけばいいのかは、アパート経営の初心者には到底わかることではありません。
より正確な金額を知るためには、アパート経営のプロであるアパート経営会社だったり、先輩家主にアドバイスを求めるのがいいでしょう。
あくまでも一般論ですが、家賃収入の5%を毎月修繕費として積み立てておけば、将来的なリスクに備えることができると言われています。
アパートやマンションローンを組む際の注意点
アパートローンを組むとき、注意しなければならないことは、一戸建てや分譲マンションと同じローンだと思わないことです。アパートローンの場合、どちらかというと消費者金融や、クレジットカードのキャッシングのように考えて下さい。
理由としては、戸建ての住宅ローンより金利が高いからです。そのため、とにかく1年でも早く完済してしまうことが最優先課題になります。
当初10年くらいは、ほとんど手元に現金が残らなくてもいいので、とにかくアパートローンの返済や修繕等の積立金にまわすことを強くおすすめします。
具体的には、当初10年で手出しの自己資金を全額回収して、15年で建物の建築費も減価償却してしまうのがベストな流れです。
必要な自己資金の目安
いきなり結論になりますが、理想的な自己資金の額は、ズバリ0円です。手出しの自己資金を0円で、建築費のすべてをアパートローンなどの融資でまかなえるのであれば、絶対にその方が損をしないと思います。
しかし現実問題として、自己資金0円でフルローンを組める人はほとんどいません。融資をしてくれる金融機関がそれを良しとしないからです。
家主経験が豊富で、他にも賃貸物件を多数所有している人であったり、一流企業に勤め高い収入を得ている人であれば、自己資金0円でも融資してくれる金融機関もあるかもしれませんが、一般の人が自己資金0円でアパート経営をはじめるのは、相当厳しいと思ってください。
となると、自己資金はどれくらい必要なのかという疑問が出てきますが、管理人的には、なるべく自己資金は抑えておきたい派なので、建築費の5%、多くても10%以内をおすすめします。
5,000万円の建築費であれば、理想の自己資金は250万円~500万円となります。
金融機関のアパートローンを利用する場合、自己資金は建築費の10%前後を1つの目安として、審査しているケースが多いと思います。ですので、無難にアパートローンの審査をクリアしたいと思っているのであれば、自己資金は最低でも10%以上に計画しておくのが良いでしょう。
ただし、そこまで自己資金を準備できないという人もいると思います。そういう人は、アパート経営会社が提携している金融機関のアパートローンに申込んでみるのも1つの方法です。他にも、大東建託やレオパレスのような大企業の家賃保証(一括借上げ)制度を利用するという手もあります。
大東建託やレオパレスのような大企業が、30年などの長期に渡って建物全部を借上げてくれる一棟借上げ制度は、融資をする金融機関にしても信頼という面で高く評価されるので、個人のアパート経営よりも融資がつきやすいと言われています。
さらに大手アパート建築会社では、一括借り上げの数年分を自己資金に充当できるよう、家賃前払い制度を採用している場合があり、事前に家賃3年分から5年分を前払いで受け取れるようになっています。
建築費高騰の原因
アパートやマンションの建設費は、ここ5年ほど高騰しています。戸建てや分譲マンションも同じく高騰しているようです。
その理由は大きく2つあり、「2020年の東京オリンピック」と「東日本大震災」の影響だと言われています。東日本大震災の復興工事、そして2020年の東京オリンピックに伴う各会場の建設工事が集中しているためです。
工事が集中すると建設資材が不足してしまい、それが価格を高騰させる原因にもなり、建設作業員の確保も困難になり、人件費も高騰してしまいます。
「東京オリンピックの会場建設が一段落したら、建設費の高騰も落ち着くだろう」という見方をする人もいますが、管理人はそうは思いません。
東京オリンピックの会場建設などが一段落したら、今度はその時期を待ちわびていたその他の建設工事が一気に動き出すので、同じように建設資材と人材の奪い合いが続くと予想しています。
それに、東京オリンピックの会場建設が落ち着いてから、アパートやマンションの建設計画をしていると、それだけの期間を無駄にしてしまうという結果にもなります。
アパート経営をはじめるという気持ちが固まっているのであれば、少しでも早くはじめて、1年でも早く投資費用を回収するのがベストな選択だと思います。
2020年まで待ってしまうと、アパートローンの金利が上昇してしまう可能性さえあります。金利が1%上昇するだけで、支払い総額は数百万円という単位で変わってくるので、数年先まで考えて行動することが大事です。
まとめ
アパート建築会社、大手ハウスメーカー、地元工務店など、アパートの建築費は依頼する先によって全然違ってきます。
少しでも費用を抑えたいのであれば、地元工務店にまさる会社はないと思いますが、一括借り上げや家賃保証の制度が利用できないなどの弊害が残ります。
別記事の「アパート経営、マンション経営の利回りは?失敗例とリスクも確認」でも解説しているように、まずはアパート経営の目的をハッキリさせ、そこから建築依頼する業者やアパートの工法を決めていくのがセオリーです。
自己資金をどれだけ持っているかによっても、依頼する建築先が変わってくることがあります。
手持ちの自己資金がなければ、アパートローンの審査に通るのも難しくなります。最低でも建築費の10%程度の自己資金を準備できるのが理想です。自己資金が用意できないのであれば、家賃前払いや提携ローンを扱ってる建築会社に相談してみましょう。
東日本大震災や2020年の東京オリンピックの影響で、今は建築費が高騰しているといわれていますが、2020年の東京オリンピックが終わって建築費の高騰がおさまるという保証はどこにもありません。金利が低い今だからこそ、アパート経営を始めるのも1つの選択肢ではないかと思います。