不動産業者がマンションの査定額を決める際に使う「取引事例比較法」について解説しています。
取引事例比較法は多くの業者で使用されていますが、正しい不動産価値を算出できるかどうかは業者の経験がポイントになってきます。
この記事では、取引事例比較法の仕組みを分かりやすく解説しながら、なぜ正しい不動産価値の算出に業者の経験が必要なのかまとめています。
- 【目次】取引事例比較法の仕組みと問題点
取引事例比較法とは
取引事例比較法とは査定対象の物件と条件が近い物件の売買事例を参考にして、査定額を算出する計算方法のことをいいます。
マンションの場合は同じマンションや近隣で築年数や間取りなどが似ているマンションの売買された取引事例を集めて、査定額を決めます。
取引事例を収集する方法
では、どうやって過去の取引事例を収集するのでしょうか?
よく勘違いされるのが、現在インターネットで売りに出されている中古マンションを比較対象としているのでは?と思われがちですが、これは間違いです。
現在売り出し中のマンションの価格は販売価格であり、成約価格ではありません。3,500万円で売り出し中のマンションであっても、3,200万円で契約が成立している可能性だってあるわけです。
販売価格を取引事例として比較するわけにはいきません。
過去の取引事例というのは、あくまでも取引成立している物件のみです。つまり現在売り出し中のマンションは売り出し価格を調べることができても、取引事例比較の対象とはなりません。
不動産業者の多くは、指定流通機構(レインズ/REINS)というシステムから過去の不動産取引事例を収集しています。レインズは宅地建物取引業者しか利用できませんので、一般の人が調べようと思っても調べることはできません。
しかしレインズの姉妹サイトで国土交通省が運営管理している「土地総合情報システム」は一般個人の人でも利用できるので、自分で調べてみたい人は利用してみてください。
同じ条件で比較する必要がある
例えばAマンションの査定をするとき、隣に建っているBマンションで同じ2LDK間取りの取引事例(半年前に売買成立)があったとします。隣ですし間取りも同じなので、この取引価格を参考に査定額を算出するのは間違いではありません。
ただ今回査定依頼しているAマンションは築5年、Bマンションは築8年だったらどうでしょう。
半年前の取引事例ですが、築年数が違う取引事例をAマンションの査定価格として考えるのはおかしいですよね。この場合、単純に築3年分の差を考慮した査定価格を算出しなければなりません。
このように、対象物件ごとの違いを正すことを「補正」や「修正」といいます。取引事例比較法で査定額を算出するときには、いくつかの補正や修正をして、より正しい査定価格を算出するようにしています。
このような算出方法で求められた試算価格のことを「比準価格」といいます。このやり方は国土交通賞が発表している「不動産鑑定評価基準(取引事例比較法)」にも書かれています。
取引事例比較法で必要な補正や修正
取引事例比較法では、いくつかの補正や修正があると話しましたが、具体的にどのような項目があるのか解説していきたいと思います。
- 時点修正
- 事情補正
- 地域要因比較
- 個別的要因比較
文字をみただけでは解らないと思いますので、1つずつ解説していきたいと思います。
時点修正
時点修正というのは、取引事例があった年と現在を比較しながら、不動産の試算価値を現在の価値に置き換える方法のことです。
例えば取引事例によって収集した資料が3年前の売買記録だったとします。当然3年前と今では、その不動産価値は変わっているはずです。
経年劣化による試算価値の低下、またはその時代の経済状況なども踏まえながら、現在の価値に置き換える作業をすることをいいます。
事情補正
事情補正というのは、通常の不動産売買ではなく、特別な事情を抱えた売買を除外するという意味があります。
例えば住宅ローン不払いによる差し押さえや任意売却だったり、投資目的の売買も正常な不動産売買とは事情が違います。特別な事情を抱えた取引事例は除外しなければ、正当な不動産価値は見えてきません。
つまり売り急いでいた物件だったり、俗に言う事故物件などは比較対象リストから除外します。
地域要因比較
地域要因というのは、比較対象する物件同士の地域差を考慮するという意味です。
同じ地域のマンションであっても、Aマンションは前面道路10m、Bマンションの前面道路4mでは不動産としての資産価値が違ってきます。
こういった地域的な要因を比較しながら、価格の補正をしていくことになります。主な地域要因となる要素をいくつかピックアップしておきました。
- 道路の幅員
- テレビ電波の状況(ケーブルTV対象地域など)
- 眺望や景観
- 日照や通風
- 近隣の生活環境
- 下水道引き込みの可否
- プロパンガス、都市ガスの地域
- 災害地域などの指定状況
- 今後の都市計画構想
- 携帯やインターネット回線の電波状況
- 用途地域
個別的要因比較
個別的要因というのは、マンションの建物や土地に直接的に関係してくる項目を比較し、考慮するという内容です。
例えば同じ築年数のマンションであっても、Aマンションはブランド力がある業者の物件、Bマンションはほとんど無名の地元マンション業者の物件であれば、当然ブランド力があるマンションの方が価値も高くなります。
こちらも個別的要因となる要素をいくつかピックアップしておきます。
- 土地の強度(地盤問題)
- 駐車場確保台数の問題
- 過去の修繕状況
- 構造的問題(耐震強度など)
- 建物の高さ(高層マンションやタワーマンション)
- 施設内設備の充実度(管理人の有無やトレーニング施設など)
- エレベターの有無
不動産価値が正しく算出できないケース
マンション売却の査定時だけでなく、売り出し価格を決める時にもよく使われる取引事例比較法ですが、常に適正な価格が出されるとは限りません。
では、取引事例比較法によって、適正な価格が出されにくいのはどのような場合でしょうか?
事例数が少ない場合
取引事例比較法は中古マンションの査定や売り出し価格を決めるに良い方法だと思います。しかし、取引事例が少ない場合は注意が必要です。
築年数が浅いマンションの場合だと、同じマンションでの取引事例はほとんどありません。
そうなると、近隣の類似マンションとの比較となるので、より補正や修正の問題が大きく関係してきます。なるべく中古マンションの売買に長けている業者に依頼しないと、査定価格の段階で損する可能性が高くなります。
成約時期が古い場合
取引事例比較法の対象となる成約事例が、最近のものであれば問題はありません。
しかし、何年も前の古い成約事例しかない場合、その頃と比べて周辺の環境や不動産の資産価値、社会の景気全体が変化している可能性が高く、経験豊富な業者でなければ適正な試算ができない恐れがあります。
補正や修正する項目が多くなればなるほど、適正な資産額を算出するのが難しくなります。
成約事例の背景がわからない場合
先にも紹介しましたが、取引事例比較法で一番厄介なのが、過去の取引事例の背景がわからない物件もあるということです。
例えば何らかの理由で売却を非常に急いでいた場合には、相場よりも低い価格で売却された可能性があります。急な転勤、離婚、住宅ローンの滞納などが該当しますが、このようなケースは決して珍しいことではありません。
このような物件価格を、取引事例として比較されてもたまりません。売却までのプロセスが見えてこない物件がある点を認識しておきましょう。
まとめ
取引事例比較法は多くの業者で使われていますが、上記のように正しい不動産価値を算出できないケースもあります。
その際にポイントをなるのが、業者の経験です。
マンション売却が得意でたくさん実績のある業者であれば、査定額を正しく算出してくれますが、正しくできない業者にマンション売却を依頼してしまうと、損する可能性が高くなるので注意しましょう。
ここでポイントとなってくるのが、不動産業者選びです。
ポイントとなる業者の選び方については、以下のページで詳しく解説しています。業者の査定額が正しいのか不安な人は、ぜひチェックしてください。