2017年に何度も耳にしたニュースの1つに、「地面師グループによる詐欺事件」があります。
「地面師」なんて昔の話しで、最近はまったく聞かなくなっていましたが、なぜか2017年になり、立て続けに大きな地面師絡みのニュースが目につくようになりました。
2017年11月
大手ホテル「アパホテル」が地面師グループに12億円を騙し取られる
2017年8月
大手ハウスメーカーの積水ハウスが地面師グループに63億円を騙し取られる
地面師は高額な土地を狙うことが多いのですが、当サイトも不動産関連を扱っているので、注意換気の意味もこめて、今回はこの地面師詐欺について解説します。
- 【目次】地面師の詐欺手口と騙されない方法
地面師とは
地面師とは、不動産の所有者が知らないうちになりすまし、土地を勝手に売却したり、担保にして現金を騙し取ったりする詐欺師のことをいいます。
基本的に大きな事件の地面師は一人でなく、グループ単位で犯行を行います。
過去に放送された人気ドラマ「相棒」でも、この地面師のことを取り上げていたので、そこで初めて地面師という存在を知った人も多いのではないでしょうか。
最近になって地面師に関連するニュースが増加している理由ですが、東京オリンピック2020などが関連し、首都圏の地価が高騰していることも大きく関係しているのではないかと思っています。
不動産売買を装う地面師グループにとっては、まさに今がベストのタイミングなのでしょう。
では、2017年に起こった地面師グループの犯行ニュースと、その手口を簡単に解説します。
アパホテルが地面師に12億円を騙し取られる
アパホテルを騙し、12億もの金を騙しとった地面師グループのリーダー格の男性が逮捕されたのは、2017年2月です。
その後、同年11月にアパホテルも被害に遭っていたとして再逮捕のニュースが大々的に流れました。
全国展開しており、土地売買には慣れているはずのアパホテルでさえ騙されてしまう犯行とは、どういった内容なのでしょうか。
※参照:アパホテルから12億円を騙し取った「地面師」驚きの手口
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51035
地面師グループが目をつけたのは、地価の高騰が進む東京・赤坂の外堀通り近郊にある、現在駐車場となっている約115坪(380平方メートル)の土地でした。
このアパホテルの地面師詐欺事件には、少なくとも10名の地面師たちが関わっていたとされており、不動産仲介業者やパチンコ機器メーカー経営者なども含まれているそうです。
ただ、不動産仲介業者やパチンコ機器メーカー経営者が本当にその会社を営んでいるのか、それとも騙すための偽会社だったのかは、これから裁判が進むにつれて明らかになっていくことでしょう。
積水ハウスが地面師グループに63億円を騙し取られる
アパホテル以上に衝撃的だったのが、積水ハウスの事件です。
不動産取引を生業としている積水ハウスが、63億円という巨額のお金を騙し取られたニュースとして、非常に大きな反響を呼びました。
※参照:積水ハウスから63億円をだまし取った「地面師」の恐るべき手口
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52480
この事件の舞台となったのは、東京・五反田駅の近くにある「海喜館」という、情緒あふれる旅館が立つ土地でした。
敷地面積は約600坪。その土地の購入を持ち掛けられたのが、大手住宅メーカーの積水ハウスです。
山手線から徒歩3分という抜群の立地。積水ハウスが飛びついたのも頷けます。
売買価格は70億円だったのですが、手付けとして9割の63億円を支払っていました。その後、これが地面師グループによる詐欺取引だと判明するのですが、時すでに遅しです。
通常不動産取引では、手付金や前金として支払うのは1割~2割、多くても5割程度です。しかし今回は9割もの前金を払っています。
その理由は簡単で、無茶な条件を飲んででも欲しかった土地だからです。
事件の内容は現在も調査中なので明らかにされていませんが、この旅館の所有者でもある女将とは、似てもにつかない女性が女将になりすましていたことは判明しているようです。
地面師グループは、すでに海外へ逃亡しているという噂もあり、逮捕というニュースが流れるのは難しいかもしれません。
土地を売却する際の注意点
今回取り上げたのは数十億円という大きな被害事件でしたが、地面師は個人の不動産も狙っています。
理由は単純で、個人の不動産の方が騙しやすいからです。
地面師に狙われやすいのは、「更地」、「駐車場」、「廃工場」など、ある程度まとまった広さがある土地。そして抵当権がついてない土地です。
不動産業界にいると、不思議な話が数多く舞い込んできます。
「某大手家電量販店が1000坪の土地を探している」、「資産家が所有している山林を買って欲しい」など、どこまでが本当の案件なのか判断が難しい相談も多くあります。
地面師が身分証や不動産謄本を偽造するのは常套手段です。医師を名乗ったり、不動産投資家を名乗ったりすることも珍しくありません。
また、どこまでが被害者で、どこまでが犯行グループなのか判断しづらいのも、地面師犯行の厄介なところです。
不動産取引には、銀行、司法書士、弁護士、不動産鑑定士、仲介業者など、多くの人が関わります。そのうちのどこまでが犯行グループで、どこまでが善意の第三者なのか判断しづらいのです。
もし犯行グループの人間が、「自分も知らなかった」、「自分は被害者だ」といえば、犯行グループの一味であることを実証するのは難しいといわれています。
地面師に騙されないための対策
地面師の犯行は大きく2つに分類することができます。
- 土地所有者に成りすまして、偽の書類で金銭を騙し取る
- 実際にその土地の所有者になり、金銭を騙し取る
要するに、偽の所有者に成りすますか、実際にその土地の所有者になってしまうかの2種類ということです。
成りすましの場合は、今回の積水ハウスやアパホテルのように手続き途中で悪事がバレるので、自分の土地の所有権が移ることはほぼありません。
しかし何らかの方法によって、実際にその土地の名義を書き換えられてしまったときは大問題です。
自分の不動産を地面師から守るには、地面師グループに土地の所有権を渡さないようにしっかり管理する必要があります。
土地の所有権移転に必要な書類としては、以下の2つがあります。
- 不動産権利証
- 所有者の実印と印鑑証明書
逆の言い方をすれば、この2つを盗まれてしまったら、簡単に土地の所有者を書き換えられてしまう恐れがあるということです。
そのために1つ手を打っておきましょう。「不正登記防止申出」という手続きです。
法務局でこの手続きをしておくと、不動産に関する移転などが発生した際には、必ず本人に確認の連絡が入るようになります。
ただしこの手続きの有効期限は数ヶ月のみです。万が一、実印がなくなっていたり、不振なことがあった際に、最終手段として考えるのが有効だと思います。
もし騙されて土地を買ってしまった場合
次は、騙されて土地を買ってしまった場合の話しです。
地面師などの詐欺師から土地を買ったが、その土地が騙されて売買されたものだと判明した場合、その取引は成立したとみなされません。
つまり、本来の持ち主に返却する必要があり、お金を払った買主が丸損してしまうわけです。
例えその土地を仲介してくれた不動産会社が正規の会社で、まったく騙されていることを知らなかったとしても、その取引は無効となります。
場合によっては仲介業者や、登記を依頼した司法書士を相手に、賠償を訴えることもできますが、先ほどもいったように善意の第三者なので、実際問題として過失を問うのは難しいでしょう。
地面師による詐欺を確実に見破る方法は、残念ながら今のところないと思います。
ですので、地面師詐欺で一番恐ろしいのは、自分の土地を騙して奪い取られることではなく、その土地を知らずに購入してしまうことです。
積水ハウスやアパホテルでも騙されてしまうほど巧妙な手口を使ってくるので、信頼できる業者に依頼するのは大前提として、怪しいと思った場合は細心の注意を払いましょう。