空き家対策特別措置法が施行されて半年が経過した平成27年11月26日。神奈川県横須賀市で、この法律が初適用された空き家解体の行政代執行が実施されました。
倒壊の危険性を指摘する近隣住民の苦情がこれまでにも寄せられていたそうですが、行政側には処分権限がなく、所有者が不明だったため、どうにもできない状態が続いていました。
そんな中、空き家対策特別措置法で利用が認められた固定資産税の納税者情報によって所有者の不明を確認し、そのうえで空き家解体の代執行手続きとなったわけです。
空き家対策特別措置法は平成27年5月に施行された新しい法律です。多くの空き家が放置され続けていることが問題視され、国としての対策が急がれた結果、新たに制定される運びとなりました。
空き屋対策特別措置法の基本的なポイントについては、前回コラムの「5分で分かる!空き家対策特別措置法のポイント」をご覧下さい。
どうして解体するの?
それでは、どうして空き家が問題となっているのでしょうか。代執行をしてまで空き家を解体する理由はどこにあるのでしょう。
空き家を放置し続けることのリスクは、大きく分けて3つあります。
- 「倒壊リスク」
- 「治安リスク」
- 「環境リスク」
「倒壊リスク」
いかなる建物も、つくられた瞬間から経年劣化が始まります。使用しているか否かに関わらず、時間の経過とともにどんどん老朽化が進んでいきます。最終的にはボロボロとなり、倒壊する危険が生じます。
場合によっては、近隣住民の生命をも脅かしかねません。屋根が急に崩れてくることもあり得ます。倒壊リスクの高い空き家については、大規模な修繕や解体を速やかに行う必要があります。
「治安リスク」
次に、治安が悪化する可能性が高まります。所有者がいないことをいいことに、犯罪組織の拠点や不良集団の溜まり場になってしまうことがあります。犯罪の温床となるだけでなく、近隣に住む人たちの不安も助長します。
「環境リスク」
管理がなされない状態が長く続けば、悪臭が漂ったり、動物の住処となったり、景観が悪くなってしまいます。ゴミを不法投棄されることもあるようです。これが環境リスクです。
これらのリスクを回避するためには、空き家を放置するのではなく、しっかりとした対策を行うことが求められています。
空き家対策特別措置法の概要
空き家対策特別措置法は、行政による空き家の実態の把握を促進する法律です。これまでは法的根拠がなかったため、たとえ管理者がいない空き家であったとしても、行政側による対策や処分が難しいという事情がありました。
冒頭にあげた横須賀市の事例では、近隣住民が倒壊の危険性を指摘していました。老朽化が進んだ空き家はただでさえ不気味ですが、それが今にも壊れそうともなれば、落ち着かない日々を過ごしていたことは容易に想像することができます。
しかも、行政側に対処を依頼してもなしのつぶてであれば、不安はますます募るばかりでしょう。
そういった問題は、特に地方でよく見られ、全国各地に広がっていきました。そこで制定されたのが、空き家対策特別措置法なのです。
空き家対策特別措置法では、行政が空き家の実態を把握するために必要な法整備がなされました。所有者の特定のために、固定資産税の納税に関する情報を活用できるようになったのが最たる例です。
そして、空き家の実態を把握したうえで、中でも特に対策が必要となる空き家を「特定空き家」とします。
この特定空き家に指定されると立ち入り調査が可能となるだけではなく、所有者に対して是正に関する勧告や命令がなされ、それでも適切な対処がなされない場合には代執行で空き家を処分することになります。
まずは「助言・指導」、次に「勧告」「命令」と続き、最後の手段として「代執行」となります。
この間に所有者に対して、空き家の処分や対策を施すことを求めていきます。これらに従わない場合、行政が強制的な処分に乗り出します。
もちろん、いきなり代執行手続きが執られるわけではありません。
冒頭の横須賀市の事例は、固定資産税の納税者情報を活用しても所有者が特定できなかったため、市の責任において代執行手続きが執られました。
つまり、所有者の意思に関わらず、最終的には行政側の責任において空き家を解体処分することができるようになったのです。
空き家対策特別措置法ができるまでは、所有者が特定できない以上は、行政側としても何もできませんでした。
空き家であっても所有者のものであることに代わりはないので、行政側で勝手に処分することは許されなかったのです。それがたとえ、危険な空き家であってもです。
空き家対策特別措置法によって、空き家を管理する責任と権限が行政に与えられたことになります。
これからは空き家の放置は許されない!
空き家対策特別措置法ができるまでは、所有者が空き家を放置することによるメリットがありました。
その大きなメリットのひとつとして指摘されるのが、「固定資産税の優遇措置」です。
固定資産税とは、土地や建物にかかる税金で、住宅が建っている土地の固定資産税は6分の1程度にまで安くなるという優遇措置があります。
このことが、空き家を放置する人が増加する大きな理由とされています。
費用をかけて解体したばっかりに、土地にかかる税金が6倍にもなると聞けば、使用目的がなくてもそのまま放置しておきたいと考えるのは当然のことでしょう。
そのため、空き家対策特別措置法では「勧告」がなされた時点で、固定資産税の優遇措置を受けられなくしました。
つまり、空き家を放置することのメリットがなくなったのです。
経済的なメリットがないとなれば、適切な処置をして「資産」として活用するべきでしょう。
そうは言っても、簡単に活用ができない実態も明らかとなっています。平成27年10月に国土交通省から公開されたデータによれば、現在の耐震基準を満たし、老朽化がまだ見られない空き家は103万戸です。
※参考URL:http://www.mlit.go.jp/common/001107436.pdf
その中でも、駅から1キロ以内に位置し、簡単な手入れで活用可能な空き家は全国でおよそ48万戸だということです。空き家の総数が820万戸ですから、そのままの状態での活用が難しい空き家が多いのが実情なのです。
しかし、なにも解体だけが空き家対策ではありません。空き家対策特別措置法の施行によって、それぞれの空き家にあった活用のしかたを探る動きが盛り上がっていくことが期待されています。
空き家をどのように活用したらよいのかという課題は、非常に大きなトピックとして取り上げられることが増えてきました。
では、実際にはどのような空き家活用術が考えられるのでしょうか。具体的な活用方法をご紹介したいと思います。
固定資産税と都市計画税が大幅にアップする
上段でも話したように、空き家だと認定されてしまうと固定資産税などの優遇が受けられなくなると話しましたが、実際にどれくらい税金が増えるのかわかりやすく説明します。
特定空き家と認定されてしまうと、固定資産税と都市計画税が最大で5倍ほど増額することになります。本来の税額に戻るだけなので増額という言い方が適切かはわかりませんが、どちらにしても支払う税金が大幅に増えることだけは確かです。
それではまず、どのような家が特定空き家として認定されるのかをおさらいしてみたいと思います。
- 放置しておくことで倒壊などのリスクがある
- 放置しておくことで近隣などに対して衛生上有害となる恐れがある
- 管理が出来ておらず景観を著しく損なう状態のもの
- 近隣の生活保全のため放置しておくことが不適切と判断される場合
おおまかに言うと、上記4項目が特定空き家として認定される可能性がある項目となります。
ただ特定空き家に認定されたからといって、すぐに税金が大幅にアップしたり、強制的に取り壊されたりするわけではありません。ある程度の段階を踏まえて最終的には行政代執行による強制的な取り壊しとなります。その段階を簡単におさらいしておきましょう。
- 行政から調査員がくる
- 調査の結果により「特定空き家」と認定される
- 行政から助言や指導が行われる
- 行政から勧告がある
- 行政から命令がある
- 行政による行政代執行が実行される
このようにおおまかに分けると6段階の調査や勧告を経て、最終的に行政代執行になります。そして、ここで題材にしている税金の優遇がなくなるのが4番の勧告が行われた時点です。つまり、3番の助言や指導の段階で適切な対応をしていれば、税金の大幅なアップに対応できる可能性が残されている状態です。
では実際にどれくらい税金がアップするのか例として、「200㎡の土地で、課税評価が2000万円の物件」でシュミレーションします。
このように固定資産税は最大6倍、都市計画税が最大3倍となり、合計すると約5倍の税金がアップしていることがわかります。
これまで年間66,000円ほどだった税金が、一気に5倍の340,000円まで跳ね上がるのですから、一般家庭ではとても大きな出費となるはずです。
リノベーションで空き家をよみがえらせる
長らく放置していた空き家であればあるほど、新たに利用するためには片づけや整理をする必要がありますし、点検や修繕も必要になります。
そこで最近注目されているのが、「リノベーション」です。
Wikipediaを見てみると、「既存の建物に大規模な改修工事を行い、用途や機能を変更して性能を向上させたり付加価値を与えること」と定義されています。
大きな倉庫をイベントスペースにしたり、古民家をレトロな雰囲気を持ったカフェとして活用する事例などが知られています。
つまり、リフォームとは異なり、台所の水はけをよくしたり、階段の段差をなくすような小さな修繕ではなく、家そのものに手を加えて、新しくよみがえらせることを意味します。
長年にわたって使い道のなかった空き家であっても、リノベーションによって新たな生命が吹き込まれます。そうなれば、たとえ古い物件でも価値のある空間をつくりだすことができるようになります。
実際の空き家をリノベーションしたケースは色々あります。例えば上から下までコケに覆われてしまった20年来の空き家が、リノベーションによって賃貸物件としてよみがえった例があります。
参照URL:https://www.realtokyoestate.co.jp/renovation/case_tsuta.php
写真を見ると、ビフォーアフターの差がとても大きいことが分かります。見た目のインパクトだけでなく、収益物件への変貌のとげ方も注目ですね。
この事例のように、たとえ空き家であったとしても、アイデア次第で十分に利用できるようになることは珍しくありません。
さらに、「空き家がこんな風に生まれ変わった!」というギャップがインパクトを与えて、次の利用者を見つけやすくなるという効果もあります。
物件をどのように活用するかを考えることは、不動産オーナーのひとつの醍醐味とも言えます。空き家には、無限の可能性が眠っているのです。空き家が生み出す空間を最大限に活用しない手はありません。
行政が主導して新たな施設に改修することも
行政は、すべての空き家を壊そうとしているわけではありません。まだ十分に利用できる場合には、壊さずに別な用途で利用することも空き家対策として行っています。
空き家再生等推進事業を行っている自治体では、伝統的な家屋の雰囲気を活かして、体験施設やコミュニティレストランや特産物を販売するお店などに改修し活用している例があります。
国土交通省が発表した資料に写真が掲載されていますので、ぜひ一度参考にしてみてください。
※参考URL:http://www.mlit.go.jp/common/001107436.pdf
賃貸物件として家賃収入を得る
次に紹介する活用術は、空き家を賃貸物件として利用し、月々の家賃収入を得る方法です。
住宅は、管理をしていない状態が長く続けば続くほどに傷みが激しくなってきますので、管理体制を早めに整えておくことが求められます。「管理をする」という意味でも、空き家を賃貸することは理に適っています。
誰かしらが利用していれば、劣化の状況をすぐに把握できます。放置するために修繕を続けるという人はいませんが、使用目的が明確な場合には、修繕をすることに意味を見いだせるため、所有者が積極的に動くことにもつながります。
また、所有者としては、賃貸収入が得られるのですから新たな収入源にすることができます。定期的な修繕も必要となりますが、管理費を積み立てておけば、修繕費用を新たに工面する必要もなくなります。それゆえに、経済的なリスクを最小限におさえながら物件を保有することにつながっていきます。
さらには、賃貸することで、税制上のメリットも享受することができます。
固定資産税評価が通常の家屋よりも安くなるのです。各地域には借家権割合(ほぼ30%)が設定されているのですが、そのぶん固定資産税が安くなります。また、相続財産の場合も、賃貸物件である分、評価額が下がり、相続税対策にもなります。
実際にどのくらい安くなるのかについての説明はここでは省きますが、空き家を賃貸することで節税対策になるということを覚えておきましょう。
しかし、デメリットがあることも忘れてはいけません。賃貸物件として利用する場合には、少なからず管理をする必要が出てきます。
不動産会社に委託をしてしまえば所有者自身で管理をしなくてもよいのですが、その場合には不動産会社に対して管理費用を支払う必要が出てきます。
賃貸物件としての収益性が乏しい場合、不動産会社に支払う管理費用がバカにならないこともあります。
賃貸する場合には、専門家と相談して、きちんと収益が出ることを念頭に置いたほうがいいでしょう。支払うべき税金や修繕費用も見込んだうえで賃貸物件としての活用を検討してください。
さきほど紹介したリノベーションを行ったうえで賃貸すれば、不動産物件の付加価値が高まり、多くの入居希望者を集めることができるかもしれないので、行動力のあるオーナーにとっては、賃貸物件へのリノベーションは大きな選択肢の一つだと言えます。
不動産を賃貸することのメリット・デメリットについては、姉妹サイトである「マンション売却の達人」で詳しく解説しています。記事の例はマンションとなっていますが、戸建ての場合も注意すべきポイントは同じです。ぜひ参考にしてください。
※参考:マンション売却の達人「賃貸で一時的に貸すのは損か得か?」
売却して現金化してしまう方法も
空き屋の中には、賃貸物件としての活用が難しい場合もあります。またリノベーションや修繕費用を捻出できないことも考えられます。
大規模な修繕ともなれば、数百万円から数千万円の費用が必要となることがあり、仮にリノベーションしたとしても、思うような収益を上げることができないリスクも存在します。
それらを踏まえたうえで、しっかりとした収益計画を立てなければなりません。決して、楽観的な見方ができないことも事実です。
また、賃貸物件を管理する負担も考慮する必要があります。管理全般を不動産会社に任せる場合であっても、少なからず物件管理が必要になります。所有者が高齢である場合には特に、不動産会社の選定から日頃のコミュニケーションに至るまでが困難なことも想定されます。
そもそも、使い道がなかったために空き家になっていたのですから、所有者に活用の意思がないこともあります。
そのような場合には、空き家を売却してしまうことも有効な選択肢となります。むしろ、賃貸などでの活用を想定しない場合には、早めの売却をおすすめします。
なぜなら、空き家は経年劣化していくため、建てた瞬間から売却可能価格がどんどん下がっていくからです。
さらに、今回の空き家対策特別措置法の存在があります。今後は空き家を放置することのメリットがなくなります。行政からの目も厳しくなっていくことでしょう。
空き家を放置することのデメリットが大きくなる時代にあっては、空き家を使用するか、それとも手放してしまうかの二者択一となります。
収益物件化したり、自分で住んだりといったことが考えられないのであれば、速やかな売却が最も賢い選択だと言えるでしょう。
もし売却するかどうか出迷った場合は、一度「今の時点でいくらで売れるか?」を確認してみるといいと思います。率直にいって、空き屋の場合は保存状態が良いとは言えないので、ほとんど土地分の値段しかつかないことが多いです。
それでもまだ売れるならマシですが、場合によっては買い手が見つからずに、長期間売れないまま保持し続けなければならないケースもあります。
そうなると管理にかかる費用や固定資産税などが嵩んでいくので、なるべく早く決断することが大切になってきます。
他のページでも紹介していますが、今はインターネットで簡単に持ち家や土地の売却査定ができる時代です。いちいち不動産屋に出向かなくても、ほんの数分で査定が取れますので、まずは現在の家の価値を確認してみましょう。
その上で、「リノベーションして活用するのか?」 「それとも売却して現金化するのか?」を判断すればいいと思います。
下記の3つが大手のインターネット査定サイトなので、空き屋の活用で迷っている人は一度試してみましょう。どれも無料で使う事ができます。