実家や相続した土地を売却しようと思ったら、不動産会社から「そちらの家(土地)は、崖条例や土砂災害警戒区域に該当してます」と言われることがあります。
地域にもよるのですが、市内の3割~4割の土地が「土砂災害警戒区域」に指定されている街もあるので、そこまで珍しいことではありません。
また、崖条例や埋蔵文化財の地域に該当してしまうと、家を建てるのに制限を受けたりすることがあるため、土地の評価が下がってしまう恐れもあります。
今回は、これらの特殊警戒区域の土地売却について、わかりやすく解説します。
特殊指定区域の土地の売却について
土地には、色々な制約や規制がついているものが多く存在します。その土地の地主も、「まさか自分の土地が、その条例に該当すると思わなかった」というケースも珍しくありません。
まずは、該当する土地が多い「崖条例」、「土砂災害区域」、「埋蔵文化財」などの土地規制について解説していきます。
土砂災害区域
土地の規制で一番多いのが、「土砂災害区域」です。土砂災害区域は2つにわけられます。
- 土砂災害警戒区域
- 土砂災害特別警戒区域
(出典:小川町ホームページ)
土砂災害警戒区域
名称のとおり、土砂災害の恐れがあったり、土砂被害が拡大したときに影響を受けるリスクがある区域のことです。
地域によって、広い範囲が土砂災害区域に指定されていることがあるため、土地の売買や家の建築などの特別な規制は設けられているわけではありません。
ただし、仲介する不動産会社は、その土地が「土砂災害区域に指定されていることを重要事項説明書に記載し、買主に告知しなければならない」という決まりがあります。
坂道が多いことで知られる長崎市では、どれくらいの地域がこの「土砂災害区域」に指定されているのか、下の図をご覧ください。
(出典:長崎県総合防災GIS)
この画像は、長崎県の「長崎県総合防災GIS」のものです。下の画像で赤く色が付いている部分が、「土砂災害区域」に指定されている地域です。
土砂災害特別警戒区域
土砂災害警戒区域よりも、さらに土砂災害のリスクが高い場所として指定されるのが、この「土砂災害特別警戒区域」です。
こちらの特別警戒区域になると、色々な規制や制限を受けることになるので、土地の売買や建物の建築はできるものの、それなりの対策費用が掛かります。
建物を建てようと思っても、崩れてきた土砂に家が押し潰されないよう、1階部分をコンクリート造にしなければ建築の許可がおりなかったり、外壁を補強強化するなどの対策も必要となることがあります。
当然ですが、それ相応の費用が掛かることなので、買主側も購入を見送りすることが多く、かなり価格を下げなければ売却できないという土地もあります。
土砂崩れが起きないように崖を補強する
土砂崩れで家が潰れないように外壁を補強する
(出典:東京都HP 報道発表資料 [2013年1月掲載])
崖(がけ)条例
崖条例もあまり知られていませんが、思っている以上にこの規制を受ける地域は多いです。管理人も不動産の営業マン時代に、何度となく仲介する土地が、この崖条例に該当したことがありました。
崖条例とは、土砂崩れなどから建物や生命を守るために設けられている規制や条例のことです。
・「崖(がけ)」とは
斜面が水平面に対し30°を超える角度をなす傾斜地で、かつその高さ(下端から上端までの垂直距離)が2m~5m(地域によって異なる)を超えるものをいう。
この崖条例の問題点は、土地を売買するときに崖条例に該当しているのかがわからないことです。いざ家を建てようとしたときに該当していることが発覚します。
そのため、売買後に家を建てようとしたら、崖部分に擁壁を作らなければならなくなり、予算的な問題が発生するケースがあります。
それともう1つ、この崖条例は基本的に各自治体ごとに内容が異なる点です。
《 新潟県の崖条例 》
高さ5メートルをこえるがけに近接する建築物を、がけの上に建築する場合はがけの下端と、がけの下に建築する場合はがけの上端と、当該建築物との間に、その崖の高さの2倍以上の水平距離を保たなければならない。ただし、堅固な地盤又は擁壁を設けたもの等で、安全上支障がない場合はこの限りでない。
《 東京都大田区の崖条例 》
高さ2mをこえるがけに面した敷地に建物を建てる時は、法的な規制がかかります。原則として下図のように、がけ高の2倍以上離して建てるか、安全な2mをこえる擁壁を築造することが必要となります。
このように、各自治体によって崖条例の定義が異なります。自分が住んでいる自治体や、土地の売買を考えている自治体の規制や条例を把握しておく必要があります。
しかし、崖条例などの規制や条例は難しい言葉が使われていることも多いので、まずは仲介をお願いする不動産会社に詳しく聞いてみるといいでしょう。
擁壁(ようへき)を作る際の費用や注意点
崖条例の適用地となってしまうと、家を建てるのに崖崩れ対策として擁壁を設けたり、建物を崖部分から離して建築しなければならなくなります。
崖部分から離して建築するには、広い土地面積が必要となるため現実的でなく、一般的には崖部分に擁壁などの対策を設けるのが一般的です。
実は管理人の実家の隣家も、高低差があるために崖条例の適用を受け、擁壁を設けてあります。
擁壁工事の費用
擁壁といってもブロックを積む簡易的な方法だったり、鉄筋コンクリート造にするなど色々な方法があり、その価格もバラバラです。上記の写真は鉄筋コンクリート造の上に、関知ブロックというブロックを積んでいるタイプの擁壁です。
本当にザックリした価格しか紹介できないのですが、
高さ×長さ×100,000円
くらいで考えておくのが良いでしょう。
高さ3m、長さ10mの擁壁を作るのであれば、
3m×10m×100,000円=300万円
300万円ほどの予算で計画しておきましょう。
擁壁を作る際の注意点
上の写真をみてもらってもわかるように、擁壁を作るときに必ず必要となるのが「排水穴(水抜穴)」です。この排水穴がないと、土中に浸透した雨水が抜けないので、土砂崩れや地盤沈下の原因となってしまいます。
ですがこの排水穴が、トラブルを招く原因になることがあります。雨が降ると、排水穴から大量の雨水が流れ出てきます。その吹き出た雨水が、隣家の敷地に流れて、隣家からクレームがくることがあります。
このご近所トラブルを防ぐためには、雨水が吹き出る部分に段差を作り、その段差の部分に雨水を道路側の側溝に逃がす溝を作るなど、何かしらの対策が必要になります。
しかし建築する際、隣に家が建ってない場合には、そこまで計算して擁壁を作らない業者もいます。例えあなたの家が先に建てていたとしても、隣地へ雨水を垂れ流して良いという決まりはありません。
擁壁を作るときは、流れ出る雨水のトラブルが多いため、こういったことを予測して、しっかり計画しておくことが重要となります。
民法218条では、雨水を隣地側へ排水する工作物を設けてはならない
このように、法律によっても明確な見解があります。ですが、この法律を守らずに擁壁工事をする不動産業者や建築業者もいます。
もし隣地の許可を取っていると仮定しても、その隣家が売却され、新しく購入した人が対策を求めた場合は、それに応じなければならないというリスクまで考えておかなければいけません。
埋蔵文化財
土砂災害や崖条例とは少し話が違ってくるのですが、土地の売買で「埋蔵文化財」に関するトラブルというのもあります。
管理人が不動産会社で働いていた時の話なのですが、売買した土地に家を建てようとしたら、その土地から文化財らしきものが発掘され、その後トラブルになってしまいました。
こればかりは売主にも、買主にも落ち度はないのですが、土地を買った側からすれば、それですむ話ではありません。
もし自分が所有する土地から何かしらの文化財が出てしまったら、工事をストップし、どのような文化財が埋まっているのか調査をしなければならず、それが判明するまで工事を再開することができません。
しかも、一番の問題点は、それら調査に掛かる費用は、その土地の所有者が負担しなければならないということです。自治体から少し補助金が出る地域もありますが、ほとんどの地域では自費調査となっています。
重要な文化財だと判断されれば、調査も長引きますし、それだけ費用の負担も大きくなります。
埋蔵文化財の対処法
この埋蔵文化財の問題点は、土地の工事を始めてみて発覚することが多いことです。
この問題を防ぐ対策としては、埋蔵文化財が発掘された地域を、自治体で確認することです。過去に埋蔵文化財が発掘された地域の近辺は、埋蔵文化財が発掘される確率が高いです。
調べた結果、埋蔵文化財が近くで発見されていたと知ったら、その地域の土地の購入は避けた方が無難かもしれません。それと、長い間ずっと田んぼや畑だった土地も注意が必要です。
過去に家を建てたり、造成工事をしているような土地であれば、一度掘り起こしているので、あらたに文化財が発掘されるリスクは少ないでしょう。
まとめ
土地の売買では、「後になって発覚する規制や条例が多い」ということを知っておくだけでも、土地選びや契約前の確認事項で、取るべき行動が変わってきます。
土地を売る側の対策としては、例えどのような規制や条例に該当することが後になって発覚しても、契約そのものは有効であるという文言を契約書に入れておくことです。
買主に怪しまれる可能性はありますが、理由を説明して「契約前にしっかりと調査してから購入するか決めてください」と言っておけば、買い主にも理解してもらえるでしょう。
買主側の対策としては、不動産会社ではなく、実際に家を建てる建築会社に、しっかりと土地の調査を依頼することです。不動産会社の営業マンは、このような規制や条例のことはほとんど無知だと思ってください。
家を建てる建築会社に、「家を建てるにあたり、何か問題となりそうな規制や条例に該当しないか調査してください」、とお願いするようにしましょう。