あまり大きなニュースになっていないので、ご存知ない方も多いと思いますが、平成28年5月の国会にて、宅地建物取引業法の一部を改定する法案が可決成立しました。
その中には、今回取り上げる「ホームインスペクションの義務化」が含まれています。
このホームインスペクションの義務化は、今後の中古不動産の売買において大きな改革をもたらす可能性がありますので、ここで概要だけでも知識として身につけておきましょう。
ホームインスペクションとは?
ホームインスペクションとは、別名「住宅診断」とも言われ、売主・買主・仲介業者ではない第三者となる専門業者が、住宅(マンション)の建物状況を簡易診断することをいいます。
診断調査の内容には、建物の劣化状況・欠陥箇所の有無・改善が必要な箇所などがあり、それらの改修時期や費用などを報告書にまとめます。
このホームインスペクションを受けることで、買い手側も安心して購入することができるようになりますし、売り手側も売買契約後のよくあるトラブルである瑕疵担保責任の不安を解消できるメリットがあります。
以前からこのようなサービスはあり、公平な売買を保つために利用してる不動産業者もいましたが、調査費用などの面から積極的に取り入れられてはいませんでした。
ですが、今年5月の国会で、中古住宅の売買に関して「ホームインスペクションの実施状況を告知する」ことが義務化され、中古の住宅やマンションを売買するとき、当物件が「ホームインスペクション」を受けてる物件なのか、未実施の物件なのかを、契約事項の中に明確に告知しなければならなくなりました。
ホームインスペクションの義務化で何が変わるのか?
ひとつ注意が必要なのは、中古物件の売買において「全ての物件がこのホームインスペクションを実施しなければならない」という法律ではないということです。
この法改正は、あくまでも「ホームインスペクションの告知義務」があるということです。つまり、ホームインスペクションを実施していなければ、契約書に「ホームインスペクション未実施」と記載しておけば法律的には何の問題もないのです。
しかし、「告知が義務化」されただけでも、大きな変化が生まれることは容易に想像できます。これまでホームインスペクションの存在すら知らずに中古住宅を購入していた方たちが、「ホームインスペクション」という存在を知る機会になるからです。
例えば、中古マンションを購入するときに、新耐震基準が施行された昭和56年以降の物件が安全だという認識は多くの方が持ってるかと思います。しかし、それもここ10年くらいで認知され出したことで、以前はそのことを気にする人はほとんどいませんでした。
そのことさえ知られていなかった理由は、契約書などに記載がなかったからではないでしょうか。
つまり、今回の法改正がきっかけとなり、今後の中古住宅の売買では、このホームインスペクションを受けてる物件が「買い手側の基本基準」となる可能性が存分にあるということです。
もしかすると、ホームインスペクションを実施してない中古物件は、それだけで買い手側から候補の中から除外されてしまうという日が来るかもしれません。
大手不動産検索サイトの状況
そのホームインスペクション重要性から、「ホームインスペクション済み」を検索項目に入れている大手不動産検索サイトもありますが、まだ全ての不動産サイトが導入しているわけではなく、記事執筆時(2016年9月)では、下記の画像にもあるようにSUUMO(スーモ)だけのようです。
このように、不動産業界全体がホームインスペクションの実施物件を検索対象とする動きも出てきています。
SUUMO(スーモ)のように「インスペクション済み」が検索対象項目となれば、未実施の物件はその段階で買い手側の候補から除外されてしまうということです。
中古マンションを検索する際の「最寄駅から徒歩10分」と「最寄駅から徒歩11分」と同じくらい、重要な要素になるのではないかと管理人は思っています。
ホームインスペクションの費用は誰が負担するのが良いのか?
ホームインスペクションが一般的に普及しない要因のひとつに、費用の問題があると言いましたが、いったいどれくらいの費用が掛かるのでしょう?
この調査費用は依頼する業者によって多少の違いはありますが、中古の一軒家で約7万~10万円、中古マンションだと約5万円~8万円です。
それとプラスして、売買契約後の保証サービスまで依頼するとしたら約15万円の費用になります。
さて、これらの費用は誰が負担するのか?という問題ですが、やはり第一候補となるのは「売主さん」だと思います。
というのも、売主の同意なくしてこのサービスを受けることは不可能だからです。
ですが、ホームインスペクションを行ってメリットがあるのは、当然買主側です。そうなると、売主だけに費用を負担させるのも少し変な気がします。
ですので、一時的に売主が全額負担して調査を実施しておき、売買が締結する時点で調査費用として半分程度を買主に負担してもらうというのが一番良いように思います。
ホームインスペクションを利用して媒介契約を結ぶ
ホームインスペクション費用は、第一候補として売り主が負担すると言いましたが、最近では、これらのホームインスペクションにかかる費用をすべて仲介する不動産業者が出してるというケースも珍しくありません。
なぜ仲介業者が費用を負担するのかというと、それは「自社で売買をしてほしい」という目論見があるからです。
不動産売買では、媒介契約を結び売却を依頼するのが一般的です。しかし、その媒介契約には期限が設けられており、売主の都合で他の不動産会社へ変更することも可能なのです。
なので、他業者への変更を防ぐために「調査費用を負担します」ということで、専属媒介契約を結ぶきっかけとしているのです。
2,500万円の不動産売買が成立すれば、仲介した不動産業者には最大150万円以上の仲介手数料が入りますので、ホームインスペクションの費用を負担することにより専属媒介契約で契約できるのなら、5万円~10万円の負担も惜しくはないでしょう。
そのことを逆に利用して、特定の不動産業者に対して「貴社で専属で媒介契約を締結する変わりに、インスペクション費用を負担してもらえないだろうか?」と、売主さんの費用を削減するテクニックとして利用する方法もあるのです。
このホームインスペクションは、義務化したことによってすべての不動産の品質が向上し、不動産の検索基準も変わり、仲介業者との契約にも関係してくるほど重要なことなのです。
今後不動産の売買をするという方は、「ホームインスペクションが義務化された」ということは頭に入れておきましょう。