ホームインスペクション(住宅診断)説明義務化が話題となっていますが、耳慣れない言葉で戸惑っている人も多いと思います。
一戸建てなどは、住宅診断を行うことで物件の価値が明確化され、売買時には売り手・買い手の両方にメリットを与えてくれます。最近では中古住宅を購入する方も増えてきていますので、今後より一層、住宅診断に注目が集まっていくでしょう。
そこで今回は、ホームインスペクターの資格を持っている住宅診断のプロに、住宅診断の重要性や注意点、住宅を長持ちさせる秘訣についてインタビューしてみました。
インタビューにご協力いただいたのは、住宅診断を中心に活動している株式会社さくら事務所です。以下の5問の質問にQ&A形式で回答してもらいました。これから不動産の売買をする方は、円滑に売買を進めるための参考にして下さい。
株式会社 さくら事務所
1999年3月に設立。「第三者性の堅持」、「中立」、「完全独立系」をモットーに活動し、住宅診断利用者は38,000組を超える。※17/5/31現在
住宅診断(ホームインスペクション)をはじめ、マンション管理組合向けコンサルティング、不動産購入に関する様々なアドバイスも行なっている。
- 株式会社さくら事務所 https://www.sakurajimusyo.com/
Q.住宅診断をすることでどんなメリットがあるの?
A.もっとも大きなメリットは、売却に不利な箇所がわかることです。
あらかじめ住宅診断を実施し、懸念のある不具合を補修したうえで売却を行うと買主様の心証がよくなり、建物に対する不安を払しょくでき、早く高く売れる可能性が高まります。
またもし売主様が、もともとお住まい中も気づいていなかった不具合や隠れていた瑕疵があり、引き渡し後に買主様が気づいた場合トラブルとなる懸念があり、実際に取引において多くトラブルが起こっていますが、それを防ぐことができるでしょう。
売却時に住宅診断を入れている人はまだまだ少数派でしょうから、第三者の住宅診断結果を買主様に伝えることで安心していただくのは有効な手段だといえます。
住宅診断はインスペクションとも呼ばれ、欧米では一般的に行われています。インスペクションはよく、住宅の健康診断や人間ドックにたとえられます。住宅診断士やインスペクターと呼ばれる専門家が目で見てわかる範囲をくまなく調査します。
例えば、以下のような調査を実施します。
- 床や壁の傾きを計測して異常な傾斜はないか
- 水を流して水漏れがないか
- 点検口からのぞいて配管に問題はないか
- ドアや窓を動かして不具合はないか
マンションでしたら調査時間の目安はおよそ2時間~2時間半、調査費用は4~7万円が相場です。インスペクションの結果を報告書にまとめてもらえればそれを購入者に引き継ぐこともできるので、購入される方の信頼も大きく上がるでしょう。
日本ではこれまで、不動産の売買は建物についてほとんど知識のない仲介業者さんが、ほとんど知識のない売主様・買主様を相手に売買することが多く、建物の状態が非常に不透明でした。
中古住宅の買主様が持つ不安はとても大きく、それが中古住宅売買が普及しない一因でもありました。国も中古住宅の流通量を多くするために、インスペクションの普及に取り組み始めています。
手始めに法律が改正され、平成30年4月以降から中古住宅売買をするときには、仲介業者さんが売買予定の物件にインスペクションを入れたかどうかを知らせる説明義務が発生しました。
媒介契約時にインスペクション履歴の有無と、あればその結果、売買契約時には結果がある場合に建物の状況について、売主様・買主様双方と確認しあうというものです。
これまでは「不具合があっても気づかれなければいい」、「売却後の瑕疵を免責にすれば大丈夫」という慣行もしばしば見受けられましたが、これからの時代はそういう不透明感のある物件からは買主様が遠ざかっていくでしょう。
隠すよりもオープンにする、不具合は対処するか対処方法を買主様に伝える、それが重要になってきます。
さくら事務所で売却物件のインスペクションをご利用いただいた方からは、このようなお声を頂いています。
なかなか自宅が売れなくて悩んでいました。中古になるとこんなにも売りにくくなるものだとは知りませんでした。
古くても、情報を開示することによって安心感を買主様に提供できればと想い、ホームインスペクションを依頼しました。結果は大満足です。
自宅を売りに出す前に、この家を引き継いでいただく方にご迷惑をおかけしないようにとの考えから、さくら事務所さんにお世話になりました。
いくつかの指摘事項をあらかじめ改善してから売却しましたので、引渡したあとも安心していられることができ、感謝しています。
仲介業者さんの査定額には不満を持っていました。建物をずっと大事に使ってきたので、もっと高く売れるのではないかと思っていたからです。
さくら事務所さんのホームインスペクション報告書で、築年数にもかかわらず、結果としていい売却ができたと思います。どうもありがとうございました。
買主様は、基本的に建物の状態がわからず大きな不安を持っています。
仲介業者の言ってることは本当なのだろうかと、建物に関する情報の少なさから、仲介業者さんを信頼しきれず不安になられる方もたくさんいらっしゃいます。
そういった不安を払拭し、中古住宅の売買をスムーズに進めるお手伝いをすることが、第三者の専門家によるインスペクションの役割です。
さくら事務所では、建物についてダメ出しをするのではなく、不具合が見つかればどんな対処法が考えらえるのかを、ご依頼者様になるべく専門用語を使わないようにわかりやすいアドバイスを心掛けています。
ホームインスペクターの役割は不具合を見つけることそのものではなく、住宅診断を通じて取引にまつわる関係者の不安や懸念をできるかぎり払拭し、納得できるスムーズな不動産取引をサポートすることです。
Q.住宅診断を実施するのに最適なタイミングは?
売却を考えている人が住宅診断を実施されるなら、仲介会社との媒介契約前、購入を考えている人が実施されるなら申し込み後、購入前が最適です。
売却を考えている方は、住宅診断で建物が良い状態だとわかれば価格の査定が上がる可能性もあります。
補修した方が良いような不具合が見つかった場合でも、
- 補修してから売り出した方が良いのか
- そのままにして不具合があることを買主様に知らせ、買主様が購入後にリノベーションをした方が良いのか
といった感じで、どうやって売った方が良いかの方針を立てられるのがメリットです。
購入検討中の方が住宅診断を利用されるなら、買いたい物件に申し込みを行い、契約までの間のタイミングがベストです。万が一、自分の手には負えないような補修費がかかる不具合などが見つかっても、契約をどうするか検討できるタイミングです。
このタイミングで、あらかじめ自分にとって譲れない条件、希望するリフォームの時期や内容とうまくマッチする物件かなどを、じっくり自分の立場で解説し判断材料を提供する住宅診断を活用するのは、非常に有効な手段です。
最近はほとんどなくなりましたが、まれに売主様あるいは仲介業者さんによってインスペクションを断られてしまうケースがあります。
そのケースでは、契約時に瑕疵担保責任を3か月程度つけておいて購入(契約)後にインスペクションを行い、瑕疵担保責任が発生する不具合があれば補修してもらう、という方法もあります。
購入後に補修工事に入ることになるので少し大変ではありますが、住宅診断なしで購入するより大きな瑕疵リスクを軽減でき安心できるでしょう。
ところで、売主様が住宅診断を断る理由はいくつかありますが、もっとも大きいご不安は「建物のコンディションがわかったら売れなくなるのではないか」というもの。
さくら事務所のケースでは買主様が住宅診断を利用される際、多くのケースでそのまま契約に進まれています。契約自体を見直したいとなるのは少数です。
そもそも買主様は、その物件をとても気にいっていて、「手に負えない問題さえなければ買いたい」と考えてらっしゃる方が大半です。
買ってから取り返しのつかない失敗、後悔をしないためのリスクヘッジとして住宅診断を活用されますが、中古住宅だけどキズ一つない、といった完璧な状態を求めているわけでもないのです。
Q.診断時によく問題が起こる箇所はどこ?
A.よくみつかる問題としては、以下のようなことが挙げられます。
- 床鳴り
- 壁紙のはがれやスキマ
- 軽度の漏水
- 換気扇の吸い込み不良
- カビ
- 結露
建物の問題は大きく分けて3つになります。
- ①施工不良
- ②経年劣化
- ③旧式の仕様
原因が複合的で明確にわけることが難しいこともありますが、基本的にはこの3つでしょう。
①施工不良
施工不良は現地をみてみないと何があるかわかりません。例えば、換気扇のダクトに隙間があって空気が漏れていたり、窓を固定するためのビス(ネジ)が無い、といったケースがこれに該当します。
大きな問題では雨漏れやコンクリート躯体への大きなヒビなどがあります。こうした大きな問題は築10年以内であれば、もともとマンションを販売した売主様が補修をする義務があります、瑕疵担保責任です。
他にも、引渡しのときに渡される保証書に定められた項目であれば、それぞれ決められた保証期間内に無料で補修してもらえる可能性があります。
本来であれば、保証期間の切れる前に販売会社が建物の総点検をして報告をしてくれることが望ましいのですが、残念ながらそこまでしっかり確認してくれる会社はほとんどありません。
さくら事務所の「マンション2年目安心診断」では、ほとんどのアフターメンテナンスが期限切れとなる2年目を迎える前にマンション専有部の総点検を行っています。
アフターサービス基準に書いてある不具合は無料で補修してもらえます。中には補修に10万以上かかるものを無料で直してもらったケースもあります。
②経年劣化
経年劣化は、築年数とメンテナンスの履歴からある程度予測することができます。
住宅の部材や設備の部品などは耐久年数があり、定期的なメンテナンスが必要です。メンテナンスをしていないと、高い確率で不具合が起きています。
よくあることは、軽度の漏水や換気扇の吸い込み不良です。例えば、軽度の漏水は配管を接続しているゴムパッキンの劣化などが原因で起こります。換気扇も耐久年数や想定よりも多く使われていると、不具合が発生する可能性は高くなります。
キッチンやお風呂、トイレなどの設備機器は築15年を経過するあたりからこうした問題が増えてくる傾向があります。私たちインスペクターも、築年数から不具合の発生を想定し、その部分をより重点的にチェックすることがあります。
③旧式の仕様
旧式の仕様は、マンションが建った年代で推測できます。
例えば、1970~80年代に建てられたマンションの配管は鉄が使われていることが多く、錆が発生するため20~30年程度での交換が必要とされています。現在まで一度も交換されていないとしたら漏水のリスクが高く、購入者は配管の交換を前提とする必要があります。
他にも、現在は二重・三重ガラスや樹脂(プラスチック)製の枠でできていることがほとんどの窓ですが、少し前はシングルガラス(一枚のガラス)で枠はアルミでできていました。
この窓は結露発生のリスクが高く、窓周辺がカビてしまっていることもあります。マンションでは窓の交換が難しいケースも多いため、窓の内側にもう一つ窓をつける二重窓(インナーサッシ)をつけて結露を減少させる対策が必要となります。
こういった問題は、知っていれば対処方法を考えることができます。売主様も買主様もあらかじめ問題が分かっていれば、買った後にどうすれば良いかを判断することができます。
Q.依頼する会社によって検査内容や結果が違うことはありますか?
A.会社のスタンスによって検査内容や結果が違うことがあります。
気をつけることは大きくわけて3つです。
- ①リフォーム会社のインスペクションや現場調査
- ②売り側仲介業者さんによるお手盛りインスペクション
- ③瑕疵保険や保証をつけるための診断
①リフォーム会社のインスペクションや現場調査
まずはリフォーム会社さんが行うインスペクションや現場調査です。リフォーム会社さんのインスペクションは無料や格安で行われることがほとんどで、手軽に利用することができます。
しかしリフォーム会社さんは、工事を受注することを前提に調査をしているので、インスペクションの報告と一緒に必ずリフォームの提案をします。
もしくは、調査中にリフォームの可能性がない事がわかれば手抜き調査をしたり、結局報告すらしてもらえないこともあります。注意しましょう。
②売り側仲介業者さんによるお手盛りインスペクション
次が、仲介業者さんが自ら行う調査です。仲介業者は不動産を早く売買したいので(そうしないと仲介手数料が入らない)、何か問題があっても隠そうとする心理が働きやすいのです。
これは担当者レベルの問題ではなく、仕組みとしてそういう心理が働きやすくなっています。
③瑕疵保険や保証をつけるための診断
これは先ほどもお伝えした内容ですが、瑕疵保険や「建物」保証をつけるための診断は、「保証期間中に保証対象へ不具合が起きないか」という目線から調査します。
保証期間は1年もしくは5年で、保証対象は雨漏れや構造上主要な部分の構造躯体など、限定的です。
瑕疵保険や建物保証はよく生命保険にたとえられます。 例えば三大疾病保険は、がん・脳卒中・心筋梗塞になった時に保証してくれますが、その他は特例が無い限り保証されませんよね。
生命保険に入ったからといって決して安心ではありません。健康診断や人間ドックで健康状態を知ることが非常に大切です。
建物も同じです。瑕疵保険や保証は万が一の時に補修費用を出してくれますが、建物が良い状態であることの保証にはなりません。
検査内容も限定的なので、日常生活で想定される不具合などは考慮されません。瑕疵保険や建物保証は付加価値とはなりますが、住宅診断の目的とは異なるということをご理解いただきたいと思います。
目的が異なるにもかかわらず、「瑕疵保険や建物保証に入っているから安心です」というセールストークがあったら、気をつけたほうがいいでしょう。実際には保険や保証ではカバーできない範囲についても、安心であるかのように謳ってしまっているのです。
インスペクションで一番重要な課題は、インスペクターの第三者性を確保することです。
インスペクション先進国であるアメリカの例をとってみましょう。日本よりインスペクションが30年ほど早く普及したアメリカにおいては、現在不動産取引の中でインスペクションを活用するのはもはや常識となっています。
ところが、普及の過程においては、インスペクターと不動産業者との癒着が社会問題となりました。
そこでインスペクターの資格などライセンス要件も厳格化され、また仲介事業者さんが特定のインスペクターのみを紹介・あっせんすることは好ましくない(問題があった際は連帯責任)という自主規制も設けられています。
通常は複数のインスペクターを紹介し、利用者自身に選ばせる形となっています。またインスペクターの第三者性堅持のため、州によってはインスペクターがその後当該物件の工事受注ができない期間が定められているケースもあります。
さくら事務所に依頼をされる方々は、第三者性を重要視されています。中には売却物件に瑕疵保険が付いているがそれだけでは安心できない、だから第三者に改めてチェックしてほしい、というリテラシーの高い方もいます。
今後、インスペクションが浸透していくほどに、そうした買主様目線での住宅診断が必要になってくるでしょう。
どうやってインスペクション会社を選べば良いですか?と聞かれるのですが、大切なのは実績・第三者性・担当者のレベルです。
まず注目するべきは、診断実績と第三者性を確保しているかです。診断実績や第三者性の確保については、webページを確認すればわかるでしょう。実際に問い合わせてもよいですね。
次に、実際にインスペクションをする担当者のレベルもチェックしたい項目です。最低限必須な資格は建築士です。一級建築士である必要はなく、むしろ住宅の規模によって、たとえば木造住宅であれば二級建築士のほうが詳しいこともあります。
皆さんは、一級建築士であれば建築はすべて詳しいとお考えかもしれません。ところが建築士であっても、これまでのキャリアなどにより詳しい構造種別が限られている人も多く、新築供給中心だった日本においては住宅の劣化状況、中古住宅のコンディションを正確に診断できる人はまだまだ少数です。
ご自身が検討されている物件の構造種別に関する中古住宅診断実績が、どの程度あるのかをヒアリングされてみるのがいいでしょう。
NPO法人日本ホームインスペクターズ協会の、公認ホームインスペクターという資格もあり、合格率30%と一定のレベルが求められています。参考にしてみてください。
Q.住宅を長持ちさせるための秘訣は?
A.適切なメンテナンスです。場所ごとに適切なタイミングでメンテナンスをすることで、住宅の寿命は大きく変わります。
マンションは専有部と共用部でそれぞれ管理者が違うのでわけて考えます。マンション専有部は個人が管理し、メンテナンス費用の大半は住宅設備機器の交換です。
キッチンやお風呂などの住宅設備機器は15年程から水漏れの危険性が増します。水漏れが起きてしまってからでは被害が拡大しますし、下階の方に多大な迷惑がかかってしまいます。
何かが起きてからでは遅いので、不具合が起きていなくても予防の観点から交換をすることが望ましいです。
他に、目につきやすい建具の歪みや壁紙の張替え、床の補修などは売却前に行っても良いでしょう。壁紙が綺麗になっただけでも見違えるように印象が良くなります。
普段の生活では湿気に注意してください。住宅で使われているもののほとんどは水が弱点です。特に脱衣場やキッチン、物入れなどは湿気が溜まってカビやすい部分です。できるだけ水分が残らないように拭いたり、意識的に空気の入れ替えをしましょう。
マンション共用部はマンション管理組合が管理します。実は近年、マンション管理組合の運営がうまくいっていないことが大きな社会的な問題となっています。「マンションは管理を買え」と言われるほど管理状態は重要です。
マンションは大規模修繕といって、10~15年を目安にマンション全体のメンテナンスをする必要があります。これが適切にできていないと、外壁のひび割れやタイルの落下、雨漏れなどが発生します。
北海道のマンションで庇(ひさし)が崩落したことがニュースになりましたが、決して人ごとなどではなく、そのリスクがあるマンションはたくさんあります。
さくら事務所にも、マンションの管理状況についてのお問い合わせは日増しに増えています。買主様が管理状況を気にしてきているのでしょう。
簡単な判断基準は、外壁や廊下のメンテナンス状態、自転車置き場やごみ置き場、掲示板などの整理状況です。
マンションの管理状況は資産価値に直結するだけでなく、将来マンションがスラム化しないかを見極める重要な指標です。
これからの時代、マンションは建物・住人ともに高齢化が進み、人口減少社会の中で管理が良い物件と悪い物件が二極化していきます。
管理が悪い物件は住人がどんどん減り、修繕のためのお金が捻出できなくなり、スラム化していきます。まずは、いま所有している物件の管理組合は大丈夫か、意識するところから始めましょう。
まとめ
今回は、全5問のインタビューに答えていただきました。住宅診断(インスペクション)で、不動産の価値を目に見えるようにすることが、早期売却の実現や、物件購入時の安心につながるということですね。
不動産の価値や情報は、今後益々明瞭化が必要になっていき、売れる物件と売れない物件の差が激しくなっていくと思われます。
もし現在、物件の売却中であったり、購入を検討しているのなら、一度住宅診断を依頼してみるのもいいかもしれません。
住宅の状況が気になる方は、このインタビューの内容を参考にして、住宅診断が必要かどうか検討してみましょう。