家や土地など、不動産売却で後々トラブルになりやすい事例の1つに、土地の広さの問題があります。
売買契約書には、土地の面積「200㎡」と記載されているのに、実際にその土地を測ったら「182㎡」しか無かったという場合などです。200㎡といえば約60坪、182㎡といえば約55坪しかありませんので、約5坪の差が生じています。
買主は60坪と思って買っているのですから、実際には55坪しかなければトラブルになるのは当然です。
なぜこのようなトラブルが起こるのでしょうか。それは不動産売買では「公簿売買」と「実測売買」という2種類の契約方法があり、この売買契約の違いが原因だと考えられます。
そこで今回は、この「公簿売買」と「実測売買」について、詳しく解説していきます。
公簿売買と実測売買について
不動産売買契約では、必ず契約書ないし重要事項説明書などに、その土地が「公簿売買」なのか、それとも「実測売買」なのかを明記するようになっていますし、それぞれの売買方法の違いを、買主に対して明確に説明しなければならない義務があります。
しかし、その説明をおろそかにする不動業者もいて、それがトラブルを生みだす原因となってしまいます。
説明の義務があるのにトラブルになってしまうのは、不動産会社がどのように説明するかは不動産会社に委ねられており、明確な決まりがないことが大きな要因となっています。
「公簿売買とは、法務局に登記されている、土地の不動産登記簿を元に売買する方法です」と、わずか数秒で説明を終わらせる不動産業者もあれば、しっかりと時間をかけて丁寧に説明してくれる不動産業者もいるということです。
どちらも公簿売買について説明していることに代わりはないので、一応説明の義務は果たしていることになります。
また、公簿売買と実測売買という、2種類の売買契約があることを知らない買主や売主が多いことで、不動産業者のおざなりな説明であっても聞き流してしまうということもトラブルの原因でしょう。
公簿売買とは
公簿売買とは、法務局に登記されている、登記簿上の土地面積を元に売買契約を締結する方法のことです。
例えば、登記簿上の土地面積と、実際の土地の面積が違っていても、その誤差によって土地代金が変動することはないので、別名「土地売買代金固定型」という言い方をする不動産業者もいます。
不動産のプロであれば、契約書をみればその売買契約が「公簿売買」なのか、「実測売買」なのかすぐにわかるのですが、一般の人がみてもどちらの売買契約なのか判断しづらい部分があります。
契約書に坪単価や平米単価が記載されておらず、土地何㎡に対して売買代金が2,500万円のように記載されている場合は、公簿売買の可能性が高いです。
公簿売買では、差額の請求は原則できない
公簿売買によって土地の売買契約をしたケースで、後日、登記上の土地面積と実際の土地面積に差異が発覚したとしても、その差額分を請求したり、払い戻してもらうことは原則できません。
公簿売買というのは、あくまでも1つの土地をまるごと○○万円で購入するという売買方法なので、1坪や平米の単価で売買している訳ではないからです。
これは、残念ながら法律で認められている土地売買方法の1つなので、例え裁判をしても、差額の請求や払い戻しが認められる可能性は限りなく低いです。
公簿売買のメリット
公簿売買のメリットは、測量費用を節約できることです。土地を測るだけなので、たいした金額じゃないと思っている人が多いですが、測量費は決して安いものではありません。
土地の形状や隣地の所有者などによって、測量費は大きく違ってきますが、安くても30万円~40万円ほどです。測量費だけで100万円を超えることもあります。
実測売買とは
実測売買とは、あらかじめ坪単価や平米単価を決めておき、測量後の面積に応じて売買価格を決める土地売買契約のことをいいます。
実際に測量した面積によって売買代金が異なることから、別名「土地売買代金精算型」という呼び方をする不動産業者もいます。
こう聞けば、土地の測量を終えてから売買契約を締結すると思う人が多いと思いますが、実際には土地の売買契約を終えてから、実測作業に入るのが一般的です。そして、土地の面積が確定したあとに、売買代金の精算を実施します。
実測売買の注意点
実測売買は、測量ありきの土地売買契約となります。ですので、その測量費を買主と売主のどちらが負担するのかという問題が発生します。
一般的には売主側が負担することが多いのですが、「測量費がもったいないから、公簿売買でいいだろう」、と言ってくる売主もいます。
もちろん買主と売主の双方が納得していれば、公簿売買でも全然問題ないのですが、このような売主に限って、後々何かと言ってくることが多いので、できれば実測売買をおすすめしておきたいところです。
どうしても売主が測量費の負担を拒むようであれば、折半という方向で、仲介してくれる不動産業者から売主側に打診してもらいましょう。
実測売買のメリット
これは売主側と買主側の両方に言えることなのですが、売買後のトラブル予防という意味では、公簿売買よりも実測売買の方をおすすめしておきます。
面積の違いだけでなく、境界問題や隣地とのトラブルが発覚するなど、予測していなかった事実を知ることができるきっかけにもなります。
多少の費用は掛かりますが、資金的な余裕があるのでしたら、できるだけ実測売買を検討してください。
ただし管理人の経験からいうと、日本国内における個人間の土地売買の8割以上が公簿売買です。
トラブル事例と回避するための方法
土地売買において、測量トラブルとなる多くが公簿売買のケースです。実測売買でも、売主と買主のどちらが測量費を負担するかなどで多少揉めることはありますが、大きなトラブルへと発展する多くは公簿売買によるものです。
トラブルになりやすい事例を1つ紹介しておきます。
登記簿上では、200㎡の土地だったが、家を建てるハウスメーカーが簡易測量したところ、実際の土地面積は182㎡しかないことがわかった。
土地の買主は、あらかじめハウスメーカーと家のプランニング(間取り)を考えており、土地面積200㎡であれば何も問題なかったのだが、土地面積が182㎡であれば、すでに完成している間取りプランでは建ぺい率の問題が生じることが発覚した。
住宅地に適していると言われる「第一種低層住居専用地域」であったため、建ぺい率は60%でした。
200㎡の土地であれば、1階の建築面積は120㎡まで建てることができたはずですが、土地面積182㎡であれば、1階の建築面積は109.2㎡までしか建てることができません。
わずか約11㎡ほどの違いなのですが、これを坪面積に換算すると、約3.3坪となり、約6畳分の違いがでることになります。
すでに完成している間取りプランから、1階の面積を3坪減らすのは至難の業です。わかりやすくいうなら、6畳の和室をまるまる1部屋削ることになります。
リビングを減らすなら、当初15帖のリビング予定だったのを、やむなく9帖のリビングに変更しなければならないことになります。
もし自分が家を建てる側なら、この違いは確かに頭にきます。わずか18㎡の土地面積の違いで、住宅の計画にここまで影響してしまうのです。
トラブル回避の方法
このような土地面積をめぐる売買トラブルを回避するために、気をつけておきたい2つのポイントを解説します。
- 公簿売買について、しっかりと説明する業者を選ぶ
- 実測売買を選択する
どうしても公簿売買を選択するのであれば、公簿売買についてしっかりと売買契約時に説明してくれる不動産仲介業者を選ぶことです。
しっかり説明してくれるかを判断する方法は、自分が何も知らないフリをして、「公簿売買」と「実測売買」の説明を受けてみることです。
いかにわかりやすく丁寧に説明してくれるか、自分が身をもって体験しておけば、業者選びも難しくないはずです。
そして、やはり一番の対策は、公簿売買ではなく、実測売買を選択することです。
実測売買は、測量する手間や費用が掛かるので避けられがちですが、後々のトラブル防止のためには、お互い立ち会った上で、測量をして確定測量図を作っておくのが理想です。
ですが、測量図といってもいくつかの種類がありますので、このあと詳しく解説します。
測量図にも違いがある
土地の売買契約時には、基本的に土地の測量図が貼付されています。これは公簿売買でも同じです。ただし、貼付されている測量図にはいくつかの種類があります。
現況測量図
現況測量図とは、まさに文字通り、その土地の現況を表している測量図のことをいいます。
横何メートル、縦何メートル、隣地との接地部分が何メートル、道路との進入口が何メートルというように、誰でもメジャーがあれば計測できるような図面です。その土地に建物などの建造物がある場合は、それら建造物の詳細も測定されています。
公簿売買のときに、貼付する測量図面として使用されることが多いのが、この現況測量図です。極端な言い方をすれば、不動産業者の営業マンが2人~3人で土地を測量して、それを自分で図面のように起こしているだけの簡易的な物もあります。
確定測量図
確定測量図とは、法的に「自分の土地と隣の土地の境界は、ここで間違いありません」と、確認が取れている測量図のことです。
自分が所有している土地に接している隣地所有者全員の境界確認が取れているため、信憑性の高い測量図といえます。
ただし、隣接している土地が多ければ、それだけ測量費用も高額になり時間も要することになります。確定測量の平均費用は、安くても30万円はしますし、場合によって100万円超えることもあります。
地積測量図
地積測量図も、法務局に登録されている測量図なので、信憑性が高いと思っている人が多いようですが、これは必ずしも高い信憑性がある物ではありません。作成された時期が古いものは、信憑性という面では大きな疑問が生じます。
平成17年以降なら信憑性は高い、平成5年から平成17年以内であれば多少疑問、平成5年以前に作成されたものであれば、かなり疑ったほうが良いです。年代が古くなればなるほど、地積測量図の信憑性は低下します。
まとめ
家や土地の売却という観点からみると、公簿売買と実測売買では、明らかに実測売買の方が後々のトラブル予防にはなります。ただし、実測売買をするためには、測量費という現実的な問題が立ちはだかります。
測量は仲介を依頼する不動産業者から、測量会社を紹介してもらうこともできますし、自分で測量会社に打診した方が安上がりなケースもあります。
測量費というのは、その業者によって価格に差が生まれやすいので、まずは測量するにあたり、どれくらいの測量費が必要なのかを明確にしてから、公簿売買と実測売買を決めるようにしましょう。
後々のトラブルのことを考えるなら、実測売買が断然おすすめなのですが、公簿売買であっても、契約時に公簿売買に関する説明をしっかりしておくことで、契約後のリスクを最小限に抑えることができるので、必ずしも実測売買にこだわりすぎる必要はありません。