「活用したい土地はあるが、不動産の知識はないし、これから勉強して土地活用を始めるのも面倒だ」、と考えている人も多いのではないでしょうか。
そんな方におすすめなのが、「土地信託」という土地活用法です。
相続などにより土地を受け継いでも、これまで不動産事業など、まったく何もやってない人には、相続した土地をどう運用していいのかわかりません。そんな方の多くが、「売ってしまった方が楽だ」と考えています。
売却するのも1つの方法ですが、長い目でみたとき、その土地を運用して利益を得たほうが良いこともあります。
土地を運用することで税金対策にもなりますし、将来自分の子供たちに、資産(財産)を残してあげることにもつながるからです。
土地を上手く運用したいけど、その方法であったり、やり方がわからないという人に知って欲しいのが、今回の「土地信託」というシステムです。
土地信託とは
この土地信託とは、自分で土地運用をするのではなく、不動産の専門的知識を持つ信託会社や銀行に、土地の運用をすべて委託するというものです。
土地の委託を受けた信託会社は、その土地に見合った運用をして利益を出すことを目指します。
運用して得た利益は、土地所有者に配当されるので、土地の所有者はまったく何もせずに土地運用の利益だけを受け取ることができます。
土地信託は信用できるのか
「そもそも土地信託そのものが信用できるのか」、と考える人が多いでしょう。
しかし、土地信託を扱っているのは怪しい会社などではなく、その多くが銀行や信託銀行です。日頃から利用している都市銀行や地方銀行でも、この土地信託を扱っている銀行は数多くあります。
「みずほ銀行」などが有名です。みずほ銀行を有する「みずほファイナンシャルグループ」のなかに、「みずぼ信託銀行」があります。
同じように三井住友銀行、三菱UFJ銀行にもグループ系の信託銀行があります。
土地信託といっても、このように複数の専門機関がありますので、1社だけの話を聞いて決断するのではなく、最低でも3社くらいの話を聞いてから判断するようにしましょう。
土地信託はこんな人におすすめ
土地信託に向いている人は、以下のような人たちです。
- 土地を相続したが、不動産運用の知識がまったくない
- 土地を所有しているが、いま住んでいる場所から離れており管理ができない
- 高齢になり、不動産経営が難しくなった
- 事業資金の目処が立たない
- 契約業務や管理業務など、煩わしいことはしたくない
- 仕事が忙しく、不動産経営にまで手がまわらない
- 多くの農地を所有しており、相続税などの不安がある
このように土地信託を利用すれば、建築資金の調達、建築会社の選定、建物の管理保守、入居者やテナント募集などを信託会社がすべて行い、運用して得た利益を土地所有者へ配当するシステムになっています。
土地信託ってアパートやマンションだけなの?
多くの信託会社では、事業モデルとしてアパートやマンションの経営を打ち出していますが、アパートやマンションの経営に限ったものではありません。
信託した会社や銀行が、その土地に一番見合った土地活用法を考えてくれますので、場所が良ければテナントやコインパーキングとして土地活用をすることもあります。
例えば、新宿区にあった「第二淀橋小学校」ですが、こちらは現在「新宿ファーストウエスト」として、企業オフィスや貸し会議室などがあるオフィスビルになっています。
この新宿ファーストウエストも、新宿区が「みずほ信託銀行」に土地信託をしている事業です。
その土地信託の契約内容や収支は、新宿区のHPに記載されています。
参考:http://www.city.shinjuku.lg.jp/kusei/file06_00016.html
土地信託のメリット・デメリット
土地信託は、すごく便利な制度のように感じますが、それでも多くの人は土地信託を利用せずに、個人で土地運用をしています。
それは、土地信託という制度そのものを知らない人が多いことも理由の1つなのですが、土地信託はメリットとデメリットがはっきりしていることも、理由となっていると思います。
つまり大きなメリットがある反面、それに匹敵する大きなデメリットもあるということです。ですので、土地信託を検討する場合は、必ずメリットとデメリットの両方を知り、その上で土地信託を利用するのか決めることを強くおすすめします。
土地信託のメリット
- 土地運用の手間がかからない
- 資金的な問題がない
- 契約満期になれば、建物付で土地が戻ってくる
- 土地運用の専門家に任せることができるので失敗が少ない
- 途中で売却することも可能
- 節税や相続税の対策にも有効
- 万が一のときでも、不動産を守ることができる
土地運用の手間がかからない
土地信託の一番のメリットは、手間が掛からず「楽」であるということです。
上記でも書いているように、建築資金の調達、建築会社の選定、建物の管理保守、入居者やテナント募集などを信託会社がすべてやってくれるので、土地所有者は土地運用で得た利益の配当を受け取るだけです。
資金的な問題がない
土地信託によってアパート経営をすることになり、そのアパートの建築資金として一億円掛かるとします。では、この一億円は誰が負担すると思いますか?
この建築費の一億円を負担するのは、土地信託の依頼を受けた、信託会社や信託銀行が負担することになっています。
極端な言い方をすると、たとえアパート経営で失敗しても、この一億円を土地所有者であるあなたが返済する必要はないということです。
自分はアパート経営したいのに、多額の借金を背負うことを家族から反対されてアパート経営できなかった人などは、この方法であれば家族にも納得して頂けるのではないでしょうか。
最近は某大手アパートメーカーが、家賃保証や30年一括借り上げなどと謳っていますが、これらのシステムは基本建築資金を借り入れるのは土地所有者本人なので、最悪の場合は多額の借金を背負うことになります。
そう考えると土地信託という制度が、どれほどリスクが少ない不動産運営事業なのかがわかってもらえると思います。
契約満期になれば、建物付で土地が戻ってくる
これも土地信託の大きなメリットですが、契約が満期になると、土地に建っている建物が土地所有者の物になります。
先にも言ったように、アパートの建築資金は信託会社が借入れて建てているにもかかわらず、契約満期後は土地所有者のものになります。
土地運用の専門家に任せることができるので失敗が少ない
土地運用に関しての事業計画、市場調査、建築後の運営まで、すべて信託会社に一任することができますし、不動産運用の専門職なので、個人で運用するより失敗のリスクは低くなります。
信託会社も利益がでないことには、自分たちの利益を確保することもできませんので、より高い利益が出る土地運用を模索します。
アパート建築会社は、建築資金で利益を確保することができるので、アパート経営のことまで真剣に考えている訳ではありません。
とにかく、地主にアパートを建ててもらうことが第一なのですが、土地信託の場合はアパート経営で得た家賃収入が自分たちの利益になるので、しっかりとした事業計画をした上で土地運用してくれます。
途中で売却することも可能
土地信託の特徴の1つに、「信託受益権」というものがあります。これはゴルフ場でいう会員権のようなものです。この権利を譲渡することができるのが土地信託の特徴でもあります。
つまり、どうしても急にまとまったお金が必要になったとき、この信託受益権を売却することができるということです。
土地だけでなく、そこには信託会社が運営する収益物件が乗っかっているので、土地だけよりも高く売却できる場合もあります。
通常だと土地を貸したり、アパート経営をしていると借入金が発生し、自由に売却できなくなるものですが、この土地信託であれば権利を売買するだけなので問題ありません。信託会社も、それをメリットの1つにしています。
節税や相続税の対策にも有効
信託会社が負担する借入金利や、公租公課等の費用であっても、確定申告時に経費として計上することができますし、これは建物減価償却費も同様です。
また、信託会社に委託している賃貸物件であっても、相続税評価額は個人で建築した場合と同じように評価されますので、相続税対策としても有効です。
万が一のときでも、不動産を守ることができる
子供が事業を始める際、親を連帯保証人として事業資金を借りることは良くあります。その場合、もし事業が失敗してしまったら連帯保証人である親族にも借金返済の義務が発生します。
その際、不動産物件などを差し押さえされるリスクがあるのですが、土地信託であれば所有権は信託会社へ移行しているので、万が一のときに財産を差し押さえられることもありません。
土地信託のデメリット
- 手数料を取られるので収益性が低くなる
- 収益性によって信託できない土地もある
- 所有権を譲渡するという不安がある
- 収益性は信託会社次第
手数料を取られるので収益性が低くなる
借入金などの返済などを差し引いて、得ることができた利益の中から信託会社の手数料(信託報酬)も取られてしまうので、自分でアパート経営するよりも収益性は低くなります。
信託会社によって手数料の額はまちまちですが、一般的には賃料収入の10%くらいだと見ておくのが良いでしょう。
中には5%という低い手数料の信託会社もありますし、20%という高い手数料を取る信託会社もあります。
しかし、手数料だけで信託会社を選ぶのはおすすめしません。しっかりとしたビジョンと経験がある信託会社を選ぶようにしましょう。
収益性によって信託できない土地もある
信託会社は土地活用の専門知識を持っており、かなり厳しく土地の利用価値を判断してきます。アパート経営や駐車場経営をしても、利用者が見込めないような土地であれば、信託会社から信託契約を断られてしまうこともあります。
ただし逆の考え方をすれば、信託会社から断れた土地であれば、土地事業を運用するのが難しい土地だということがわかります。そうなったら土地活用を考えるより、売却してしまったほうが良いという、参考になる判断材料にすることもできるのではないでしょうか。
ただし1社の信託会社に断られたからといって、すぐに諦めてしまうのではなく、数社の信託会社に声をかけてみてから判断しても遅くありません。
例え信託会社が引き受けてくれるといっても、最低3社くらいの信託会社の話を聞いてから、どの信託会社と契約するのかを決めることをおすすめします。
所有権を譲渡するという不安がある
信託契約している期間だけですが、土地の所有権は契約している信託会社に移行しなければなりませんので、少なからずこのことに不安を感じる人も多いのではないでしょうか。
これは基本的にどの信託会社と信託契約するにしても、土地の所有権移動は起こることなので、とくべつ難しい問題ではありません。
収益性は信託会社次第
土地運用を信託会社に一任したからといって、必ずしも成功するという保証はどこにもありません。信託会社によって土地運用する方法も違ってくるので、成功するも失敗するも信託会社次第ということになります。
当然ですが、事業に失敗したからといって信託会社に賠償してもらうことも一切できません。信じて任せた以上、信託会社の裁量に頼るしかないのです。
土地信託の流れと必要書類
土地信託は、なかなか利用することが少ない制度なので、どのようにして土地信託を依頼すればいいのか、わからない人も多いと思います。
ここでは、土地所有者の目線で、土地信託を利用する手順を追って解説していきます。
- 土地信託を扱っている、信託会社や信託銀行に相談をする
- 土地信託を依頼する信託会社を決定する
- 土地の所有権は信託会社に移り、所有者は信託受益権を受け取る
- 信託会社が工事発注業者を決め、建築請負契約を締結する
- 信託会社が建築代金など、必要な資金を金融機関より借入れします
- 建物が完成後、引渡しと同時に建築代金の支払いをします
- 入居者の募集や賃貸契約はもちろん、その後の管理やトラブル対応も信託会社が行います
- 入居者より家賃を受け通り、借入れ金の返済や必要な経費を支払います
- 残った収益から、信託会社の手数料(信託報酬)を差し引き、土地所有者に信託配当します
- 信託期間が満了すると、土地は建物が乗った状態で土地所有者に返還されます
細かな手順を書き出すと、上記のような流れになるのですが、ポイントにして分けると以下の4つに分類できます。
信託会社の選択
1つ目のポイントは、土地運用をお願いする信託会社選びです。
信託会社や信託銀行など、土地信託を扱っている企業は数多く存在しています。その中からどの信託会社に土地運用をお願いするかで、結果も当然違ってきます。
管理人としては、まず都市銀行グループの信託会社に相談をして、土地信託という内容を理解することをおすすめします。土地信託の内容をある程度理解できたなら、あとは気になる信託会社や信託銀行に数社相談してみるのが良いでしょう。
決して1社だけに相談して決めてしまうのではなく、なるべく多くの信託会社に相談してから決めるようにしましょう。
信託会社による土地運用
土地運用をお願いする信託会社が決まったら、信託契約を締結します。あとは、土地所有者は何もすることはありません。
その土地にはどのような土地活用法があるのか、初期投資費用はどれくらい掛かるのか、利回りはどれくらい確保できるのかなど、すべて信託会社がやってくれます。
建物の建築会社や、その建築費用なども、すべて信託会社が独自の判断でやってくれますので、「建築会社はここでいいですか?」、「建築費用はこれくらい借りてもいいですか?」という打診すらありません。
信じて任せたのですから、土地運用に関しては信託契約した会社に一任して信じるしかありません。
もしアパート経営することになった場合でも、入居者の募集や賃貸借契約なども、すべて信託会社側がやってくれますし、建物の管理や入居者からのクレーム対応も信託会社側がやってくれます。
ただし厳密にいえば、信託会社がすべてやるのではなく、信託会社と契約している管理会社が、クレーム対応や建物管理などはやることになります。
信託配当の受け取り
家賃収入から借入れ金の返済をしたり、管理契約している会社へ管理費を支払わなければなりません。それらの諸経費を差し引いて残ったのが収益となります。
ただし、この収益から信託会社の報酬も支払わなければならないので、それらの支払いをすべて終えて残ったのが本当の収益分です。
これらの支払いをして収益が残っていれば、その分は信託配当として土地所有者が受け取ることができますが、もし収益が残らなかった場合は、当然土地所有者が配当を受け取ることはありません。
もちろん信託会社は少しでも配当が多くなるように、どのような事業が向いているのかを総合的に検討してくれるので、例え信託会社に報酬を支払ってでも、土地信託を利用したり検討する価値は十分にあると思います。
信託契約の終了
信託した土地によって、信託会社がどのような土地活用事業をするのかにもよりますが、一般的なアパートやマンション経営であれば、信託期間は20年や30年という長期になります。
理想としては、建物建築費の借入れ金を全額返済できた時点での契約満期でしょう。
そうすれば、土地だけでなく、その建物のが乗った状態のまま土地を返還してもらうことができます。
まとめ
土地信託はメジャーな土地活用法ではないので、「土地信託という土地活用法があることを知らなかった」、という人も多いと思います。
しかし、管理人が思うに、今後実家の土地を相続したり、売却したくても希望通りの価格で売れない土地が増え、この土地信託という制度が注目を浴びる日も近いのでないかと思っています。
土地運用のプロに委託することができ、その相手が銀行というのであれば、これほど安心できる土地運用法はないでしょう。
管理人の勝手な意見ですが、街の不動産会社に土地の所有権を移動してまで、土地運用を任せることができるでしょうか?そこに「銀行」という信用があるからこそ、この制度が成り立っているのだと思います。
これから先、この土地信託を利用する人が増えれば、今のように簡単に信託契約出来なくなる可能性もあると思っています。土地信託を依頼したいという人が増えれば、信託会社側も土地を選んで契約するようになるからです。
もし土地運用を検討しているのであれば、早い段階で一度相談だけでもしておくことをおすすめしておきます。あまり土地信託制度が浸透していない今がチャンスです。