実家や土地の相続は、一生に一度あるかないかの出来事です。不動産に知識がない人は戸惑うことも多いと思うので、相続する際に必要な手続きや費用について、わかりやすくまとめて解説します。
相続にあたっては、財産分与や土地の名義変更など、色々と注意すべき点が多く、時には親族間でトラブルになってしまうこともあります。
相続した家や土地を売って、現金で財産分与するケースもあるので、全体の流れを把握した上で、早めに相続人間の意思をまとめておきましょう。
- 【目次】相続の手続きと売却方法
不動産を相続する際の流れと手続き
不動産を相続したら、まずは名義変更を行います。相続した家を建て替えるにしても、売却するにしても、必ず名義変更する必要があるからです。
名義変更までの流れは以下の通りです。
- 相続財産を把握する
- 相続人同士で話し合いをする
- 遺産分割協議書の作成
- 相続登記手続きをする
相続財産を把握する
相続の手続きを行う際には、実家や土地などの不動産だけではなく、預貯金や生命保険など、相続するすべての財産の内容を調べる必要があります。
この時に忘れてはならないのが、借金などの「マイナスの財産」もカウントすることです。
親の財産を相続する際は、「プラスの財産」だけではなく、「マイナスの財産」もすべてまとめて相続しなければなりません。
借金やローンなどが残っている場合はそれも相続しますので、忘れないようにすべてチェックしましょう。
相続人同士で話し合いをする
相続する財産の内容がわかったら、次は相続人同士で集まって、どう財産分与するかについて話し合います。
まずは相続する意思がある人と、相続を放棄する人を明確にします。その上で、誰がどの財産を相続するかについて細かく話し合います。
例えば長男が土地と自宅を相続し、次男は預貯金を相続するといった分け方でも大丈夫です。
必ずしも1つの財産を平等に分割しなければならないというわけではありません。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書とは、相続人同士で話し合って決めた内容をまとめた書類のことです。
誰がどの遺産を相続するのか、誰が相続を放棄するのかなど、細かく内容を記しておきます。
相続人の一人でも欠けていると、その協議書は無効となるので、必ず相続人全員の署名や捺印が必要となります。
参考出典:http://souzoku-99.com/bunkatukyogisyosample.html
上記は遺産分割協議書のサンプルです。遺産分割協議書に関しては、特定の書式等は決まっていませんので、個人で作成することもできます。
大事な書類なので、もし不安がある場合は司法書士や行政書士に相談して作ってもらう方が確実です。
相続登記手続きをする
ここまでの手順を無事終えたら、実家や土地の名義を変更します。
名義変更さえ完了すれば、あとは実家や土地を売却したり、あるいは他人に賃貸にして貸すなど、自由に活用することができます。
ただし、実家や土地を売却して現金化し、その現金を相続人で分ける場合には注意が必要です。
詳しくはこの後の「売却した現金を均等に分ける場合の注意点」の項目で解説するので参考にして下さい。
相続にかかる費用と税金
続いては相続にかかる費用や税金について解説します。
手続き費用に関しては多少の支払いが発生しますが、相続税については多くの人が不要になるはずなので、あまり心配する必要はないでしょう。
相続手続きの費用
相続手続きにかかる費用は、大きく分けて以下の2つです。
- 登録免許税
- 手続きに必要な書類の取得費用
登録免許税というのは、名義変更をする際に支払う手数料のようなものです。相続登記の場合は、「固定資産税評価額の0.4%」と決まっています。
例えば、相続対象となる実家と土地の固定資産税評価額が、合わせて2,000万円だった場合、「2,000万円×0.4%=8万円」となります。
手続きに必要な書類(戸籍謄本や住民票など)については、実費だけなら数千円もあれば取得できます。
ただし、司法書士などの専門家に依頼した場合は別途報酬を払う必要があるので、目安として3万円から5万円程度かかると考えておきましょう。
まとめると、仮に評価額2,000万円の不動産を相続するのであれば、「8万円+3万円=11万円」程度を目安の金額として考えればよいでしょう。
相続税について
遺産相続にあたり、相続税がいくらかかるか不安に思う人も多いですが、実際にはそこまで心配する必要はありません。
なぜかというと、遺産相続にあたっては「基礎控除」というものがあるので、一定の金額を超えない限り相続税の対象とならないからです。
割合で言えば、相続税を支払う対象となる人は、全体の5%に満たないと言われています。
相続税の基礎控除額は、相続人の数によって増えていきます。
<相続税の基礎控除を算出する計算式>
基礎控除額 = 3,000万円+600万円×相続人の人数
上記の計算式に当てはめると、「相続人が母と子ども2人の計3名」だった場合、
600万円×3人=1,800万円
1,800万円+3,000万円=4,800万円
となり、相続する遺産の合計額が4,800万円を超えなければ、相続税は発生しないことになります。
不動産の相続税価格はどう出せばいいの?
相続税の計算方法ついて説明してきましたが、ここで1つ疑問が生じると思います。
現金や生命保険などは、そのまま額面を相続額と考えればよいですが、不動産の場合はどうやって相続額を算出するのでしょうか?
実際に不動産の相続額を算出しようとすると複雑な計算が必要なので、代替案として「固定資産税評価額×1.14倍」という計算式を使います。
例えば不動産の固定資産税評価額が2,000万円だったとしたら、「2,000万円×1.14=2,280万円」が相続額の目安だと考えておけば大差ありません。
相続した不動産を売却する
続いては、相続した不動産を売却する場合の流れと、売却せずにそのまま保持する場合の注意点について解説します。
不動産を売却するまでの流れ
相続した実家や土地を売却する場合ですが、まずは相続人間でどのように遺産を分けるか話し合うのが先です。
まだ相続人間で話し合いが終わっていない段階で、不動産業者に売却の相談をする人も多いですが、この段階では不動産業者は役に立ちません。
むしろ余計な第三者が介入するとトラブルの原因になるので、売却の相談をするのは、最低でも遺産分割協議が終わってからにしましょう。
できれば、下記のように相続登記手続き(名義変更)まで完了してからがよいです。
- 相続登記手続き
- 不動産業者に相談
- 売買契約
- 確定申告と納税
相続登記さえ終われば、あとは普通の不動産売却と同じ流れなので、特に大きな問題はなく進めると思います。
売却にあたって大事なのは、「どの仲介業者(不動産業者)を選ぶか?」なので、その点については下記のページの解説を参考にして下さい。
売却した現金を均等に分ける場合の注意点
売却までの手順は前項で説明した通りですが、「売却した現金を相続人で均等に分ける場合」には、別途注意すべき点があります。
それは、実家を相続する「名義人」に関する問題です。
よくある失敗が、「あとで現金を分けるから名義人は誰でもいい」と考えて、名義人を長男(長女)だけにしてしまうケースです。
この場合、相続した不動産を売って得たお金は長男のものになるので、あとで他の兄弟に現金を分けた場合、相続ではなく「贈与」とみなされてしまいます。
非常に単純なミスなので、司法書士などの専門家に手続きを依頼している場合は心配いりませんが、手続きを自分でやる場合には注意が必要です。
もちろん、「相続が終わった後になって、やっぱり売却することにした」というケースでも同じことが起こるので、不動産の相続に関しては、手続きを行う前に相続人間でしっかりと話し合って、トラブルにならないよう気をつけましょう。
売却をせず兄弟の誰かが住む場合の注意点
次は、相続した家を売却せずに、家族の誰かが住む場合について解説します。
名義人である父親が亡くなったというケースでは、母親が健在であれば、とりあえず母親の名義にすることで問題ありませんが、両親ともに他界している場合はトラブルが起きやすくなります。
例えば兄弟姉妹が3人いて、長男が実家に住むことを選択したとします。この場合、残る2人にも遺産を相続する権利は当然あります。
このケースにおいて、
- 相続した実家の価値は3,000万円
- 不動産以外に価値のある遺産は無し
相続内容が上記だった場合、1人当たりの取り分は1,000万円となりますので、長男は他の兄弟に対して1,000万円ずつ支払う必要があります。
しかし、それだけの現金を急に支払えるという人も少ないので、長男が「実家を残しておきたい」と思ったとしても、他の兄弟との折り合いがつかずに、遺産争いへと発展してしまうケースが多いです。
後々になって揉めないためにも、事前の話し合いで売却するのかどうかをしっかりと考えておくことが大事です。
相続手続きは誰に相談すればいいの?
ここまでで解説したように、実家や土地の相続にあたっては、トラブルに発展するのを防ぐために色々と注意すべき点があります。
親族間での揉め事は、経済的にも精神的にもキツイものなので、できる限り避けたいところです。
もし不安があるならば、第三者である専門家に依頼して、取りまとめてもらう方がよいでしょう。
相談相手としては、弁護士、税理士、行政書士、司法書士などが考えられます。
弁護士 | 相続の取り分などで揉めている |
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税理士 | 相続税のことが不安 |
行政書士 | 基本的な手続きは自分でするので、最低限の書類だけ作って欲しい |
司法書士 | 書類の作成や相続登記などすべて任せたい |
管理人の意見としては、相続手続き関連の依頼をするなら、司法書士が一番よいと思います。
弁護士は、すでに相続で揉めている場合などに依頼する相手なので、円満な相続では必要ありません。また費用的にも一番高いです。
税理士はその名の通り、税の専門家なので、多額の遺産があって相続税の心配がある場合におすすめです。
行政書士は費用的には一番お手ごろですが、行政書士に許されている範囲は書類の代行のみです。よって、遺産分割協議書の作成だけであれば、行政書士に依頼しても問題ありません。
一方で、おすすめした司法書士であれば、遺産分割協議書の作成だけではなく、不動産の登記関連もまとめて依頼できるので、手間と費用を考えた場合に、一番コストパフォーマンスが良いと思います。
まとめ
今回は実家や土地を相続した場合の注意点を解説しましたが、一番大事なのは「相続の内容をしっかり話し合って決めておくこと」です。
ここができていないと、親族間で泥沼の遺産争いをすることになってしまうかもしれないので、くれぐれも注意しましょう。
一般論となりますが、相続した実家や土地について、当面の間使う予定がないのであれば、売却して現金化したほうが無難なケースが多いです。
現金化すれば平等に分けられるので、相続人間で不公平が生じることもありませんし、先々の維持コストもかかりません。
今は日本全国で「家余り」の状態なので、古くなった家をそのまま持っていても、「資産」ではなく「負債」になってしまう可能性の方が高いです。
実家には大切な思い出もつまっていると思うので、売却するのが忍びないという人も多いですが、将来的なトラブルの種になってしまうことも多いので、相続人間でしっかり話し合って、売るか残すかを決めてください。