コンパクトシティ構想の問題点と事例、今後の課題

コンパクトシティ構想の問題点と事例、今後の課題

都内中心部の地価が高騰したことで、中心地から離れた神奈川や埼玉、千葉県などの郊外にマイホームを購入する人が増えたことをドーナツ化現象といいます。

この現象がとくに話題に取り上げられていたのは、高度成長期からバブル期にかけての話しです。しかし今このドーナツ化現象が日本全国で再び注目され始めていることをご存知でしょうか?

ドーナツ化現象対策として各地でコンパクトシティ化が注目

いま住んでいる街、もしくはあなたの地元を思い出してください。

市街地から少し離れたところに大型ショッピングセンターや大規模な分譲団地などが次々に建設されていませんか?それに伴いこれまで市の中心だった市街地がシャッター通りになったり、人口の減少にともない学校が統合してしまったりしてませんか?

管理人の地元ではまさにこの現象がピッタリそのまま当てはまります。車で20分~30分のところに大型ショッピングセンターがオープンし、これまで街の中心だったアーケード商店街は閑散としてます。

そして街のど真ん中にあった私の出身中学は、生徒の減少が原因で隣の中学校と統合してしまいました。

「市街地だけでなく、市全体の開発が進むことは良いことじゃないか!」と思う人もいるかもしれませんが、実はこのドーナツ化現象は自治体にとってはあまり歓迎できるものではありません。

市街地から人がどんどんいなくなり閉店するお店が増え、車を持たない高齢者たちが市街地に取り残されてしまいます。当然市内全体のインフラ整備も必須となり莫大な費用がかかります。

自治体としてはできる限り市街地に人が集まり、できる限り狭い地域で生活の利便性を図りたいというのが本音です。そこでドーナツ化現象を食い止めるために打ち出されたのが「コンパクトシティ構想」というわけです。

いま日本各地でこの「コンパクトシティ構想」を打ち出して取り組んでいる市区町村が数多くあります。もしかしたらあなたが気付いてないだけで、あんたが今住んでいる街もコンパクトシティ構想に取り組んでいる自治体の1つかもしれません。

コンパクトシティとは?定義について

いま自治体が打ち出しているコンパクトシティ構想とは、基本的にマイカーがなくても公共交通機関と徒歩圏内で不自由なく快適に暮らせる街づくりだと思ってください。

商店街、各自治体、病院、学校などを一極集中させ、なるべく郊外へと人口が流れることを防ぐ目的があります。


(市内各地に人口がばらけてしまっている状態)


(市の中心地に人口を集め、コンパクトシティ化を図る)

ちなみに内閣府では、コンパクトシティ構想の定義を以下のように説明しています。

「今後過疎化が進むにつれ、人口密度の低い地域では医療を受けるために市街地へ出てこなければならないが、車の運転ができない高齢者のような交通弱者が増えることを懸念し、より充実した医療や福祉を受けるためにも限られた地域に生活基準を移すことが理想的である。またコンパクトシティを目指すことでインフラ整備などへの費用も抑えることができ、しいては税額負担の減少にも繋がる」

つまりコンパクトシティ構想を簡単にまとめると、車をもたない高齢者でもバスや電車で医療や行政サービスを負担なく受けれるようすること。また、買い物などの日常的なものは車でわざわざ郊外まで買い物に行かなくても、徒歩でまかなえる範囲内に充実させること。

そうすることで、郊外へと出ていった若者たちが市街地へ戻って来て再び街が活性化できる……これがコンパクトシティ構想の概要です。

コンパクトシティのメリット

自体地がやっきになって取り組んでいるコンパクトシティ構想ですが、もちろん住民にも多大なメリットがあると考えられています。その一部を紹介しておきます。

医療や福祉の充実

交通弱者と言われる高齢者にとって医療機関が一極集中することは大変望ましいことであり、カラダへの負担も最小限に抑えることができるようになります。

また集中した地域に人口が集まることで福祉サービスが向上するともいわれています。訪問介護の効率化、送迎サービスの負担減など利用者と事業者側どちらにもプラスになります。

経済の活性化

コンパクトシティ構想が目指すところは、極端な言い方をすれば昭和の日本です。日用品や食品は地域の個人商店で買い物をし、街の電気屋さんに修理をお願いする。こうしたことが地域の発展にも繋がり、経済の活性化へと向かいます。

すごく極端なことを言いますが、大型デパートで買い物したお金は当然そのデパートの売り上げ、しいては利益になります。

しかしそのお金は地元に還元されるでしょうか?大企業であれば海外事業への投資資金になったり、多角経営の軍資金となったりするのではないでしょうか?

しかし地元の個人商店で買い物をすれば、きっとその売り上げは地元で使われることでしょう。つまり地元でお金をまわした方がより経済が活性化することはいうまでもありません。

インフラと環境問題

コンパクトシティ構想にはインフラや環境問題も含まれています。自動車がいらない街づくりを目指すのですから、当然自動車の保有台数は減ることに繋がります。

自動車の保有数が減れば道路整備や渋滞対策へと投じていた費用を抑えることができ、さらには自動車から排出されるCO2削減にも繋がります。

ドーナツ化現象が進めばそれだけ郊外の田んぼや畑を造成して宅地を作らねばなりませんが、コンパクトシティ構想が上手くいけば郊外に必要以上の宅地造成を行うこともなくなり自然環境保全にも繋がります。

コンパクトシティのデメリット

ここまでは主なメリットを紹介しましたが、もちろんデメリットとなる部分もあります。

居住地の問題と高騰する不動産問題

コンパクトシティというくらいですから、当然居住地は限られた範囲内に集約されることになります。

そうなると、後から移住してくる人たちは利便性が低い土地しか残されていない可能性がありますし、なにより良い土地は高値で取引されるなど不動産の高騰が懸念されます。

生活環境の悪化

どうしても人口が密集しがちになることで、近隣と騒音や駐車スペースなどのトラブルが起こりやすくなるのは容易に想像できます。また病院や行政までのアクセスは格段に向上するものの、サービスという面では疑問が残ります。

今でさえ総合病院などの待ち時間問題が深刻化しているのに、一極集中することでさらに患者が増え待ち時間が長くなったり、学校でも1クラスの生徒数が増えることで授業についてこれない子供たちがおいてけぼりになってしまう恐れがありますし、イジメなどにまで目が行き届かない可能性もあります。

郊外の急激な過疎化と物価の下落

市街地に人口が密集することになれば当然郊外から人が減ることになります。ただし郊外にも人は住み続けます。

郊外のインフラ整備が衰退することも十分に考えられますし、不動産価値の大幅な減少が起こると資産状況にも大きく影響します。これまで3,000万円の価値があるとされていた分譲マンションが一気に半額以下の1,000万円にまで価値が暴落することだってないとはいえません。

富山や青森での失敗事例

このコンパクトシティ構想をすでに導入している自治体がありますので、今回はそのモデルケースとなった富山県富山市と青森県青森市の2例を紹介したいと思います。

富山県のコンパクトシティ構想事例

富山県富山市は日本全国でも自動車保有率が高い街として有名だということをご存知でしょうか?これは地域性も関係しています。

富山市では市内全域に住宅用地が分散しており、「マイカーがないと生活できない」と言われるほど自動車保有率が高く、なんと通勤にマイカーを使っている人の割合は8割を超えているといわれていました。

そこで富山市が打ち出したコンパクトシティ構想が下図のように、各主要駅近辺をコンパクトシティ化していき、各町ごとを公共交通機関で繋ぎアクセス向上を目指すものでした。通称「串と団子型コンパクトシティ」です。

団子が各駅を指し、それぞれの駅を結ぶ交通網を串に見立てたネーミングです。


(画像:富山市HP 中心市街地活性化基本計画資料より

そしてこの串と団子型コンパクトシティの最大の目玉とされたのが、廃線になった線路を活用した路面電車の導入です。

かなり今時のデザインをしたお洒落な路面電車なのですが、名称はLRT(次世代型路面電車)といいます。

このLRTの導入はコンパクトシティ構想を注目させるには十分な材料でした。しかもこの串と団子型コンパクトシティ構想の目玉はLRTだけではなかったのです。

なんと各駅の周辺にマンションやマイホームを購入すると自治体から補助金がでる事業を促進。その甲斐もあり駅周辺の人口は確実に増加を辿っています。

また導入当初は運行時間の問題などがあり、利用者も減少傾向にあったLRTですが、すぐに市民の声を反映させる形で運行時間の改善や終電時間を延ばすなどした結果、今ではLRTを利用する人が増え、とくに高齢者には重宝されています。

このLRTが頻繁に市内を走っているため、これまで外出に消極的だった層も積極的に出かけるようになり、それが地域の活性化にも上手く繋がっているらしいのです。

まさにコンパクトシティ構想の先駆者といえる富山市ですが、すべてが上手くいってるわけではありません。

いまだに郊外に流れた人たちの多くがマイカーでの生活を基盤にしており、自治体が思っているほど中心街に人が戻ってないのが現状です。路面電車も高齢者や学生には一定の効果を上げているのですが、一番肝心の若い世代(20代~40代)にはあまり利用されていません。

さらに路面電車が整備されたことでマイカー組は道路の渋滞が緩和されるなど、より自動車での暮らしをしやすくなっているのです。それでも富山市はコンパクトシティ構想を実施した自治体の中では成功している部類だと言われています。

青森県のコンパクトシティ構想事例

富山市のコンパクトシティ構想とは逆に失敗例として有名なのが青森市の事例です。当初青森のコンパクトシティ構想も順調にいっているように見え、他の自治体からも多くの視察団が訪れるなど、まさにコンパクトシティ構想の先駆者と言われていました。

それが一転、巨額の投資費用が焦げ付いていることが発覚したことで、いっきにバッシングを受けることになり市長、副市長ともに相次いで辞任しています。

青森市のコンパクトシティ構想は富山市とは違い、まさに一極集中構想でした。青森駅周辺に巨大商業施設を官民共同で開業しました。

図書館と商業施設が複合しており一時は多くの来場者を集めることになったのですが、そのわりには高い建築コストがネックとなり初年度からずっと赤字経営が続いていました。

そしてついに運営母体となっていた第三セクターが2016年に経営破綻したことでいっきに事態は急転します。

コンパクトシティ構想の中心的役割を担っていた複合商業施設の経営失敗は、コンパクトシティー構想そのものの失敗と捉えられ今では日本全国にコンパクトシティ構想に失敗した街として取り上げられる始末です。

30万人規模の街である青森市がどうしてこうも早急にコンパクトシティ化構想に名乗りを上げたのか?それには地域ならでわの悩みがあったのです。

青森市といえば日本でも有数の豪雪地域というのはご存じだと思いますが、青森市もやはり人口の郊外流出となるドーナツ化現象が進んでいたのです。

郊外に人口が流出するということは、より広い範囲の除雪作業を実施しなければならなくなり、なんと除雪費用だけで毎年30億円規模の公費を投入していたのです。

これだけのコストを要すると当然市の財政を圧迫するのは目に見えてます。しかも除雪コストは今も年々増加しているというのですから、このコンパクトシティ構想が急務だったのも頷けます。

青森市が失敗した理由の一端を複合商業施設の失敗が担っているのはまぎれもない事実ですが、決してそれだけではありません。この青森市コンパクトシティ構想を立ちあげた当時の市長が次の市長選で落選してしまい、志なかばで暗礁に乗り上げてしまったのも大きかったと言われています。

具体的にどのような政策の違いがあったのかわかりませんが、このように選挙によって市長が変わることで政策そのものが一変してしまう恐れがあるのも地方事業の恐ろしいところだと思います。

今後への課題

コンパクトシティ構想の最大の課題は、いまだに成功事例と言われるケースが一箇所もないことです。明らかにこれが成功した事例だというのがなければ、ただの絵に描いた餅にすぎません。

厳しいことをいうようですが、構想の趣旨は理解できるものの、とても一筋縄で解決できる問題ではないように思います。

仮にコンパクトシティ構想が成功したとしても、当然ながら郊外で生活を続ける人もいれば、その郊外のさらに外で農業などを続けている人たちがいることを忘れてはいけません。

農業のように広大な用地を有する事業は、二つ返事で田んぼや畑を移転することは現実問題として無理です。そういった構想から外れた人たちのフォローがどうされていくのかなど、現状では例え成功したとしても、色々と課題が多い構想だと言えるでしょう。

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