最近、限界集落の数が増えています。増加の原因は若者が仕事を求めて都市への流失しているからです。
問題をかかえた自治体では対策として移住者を募集していますが、限界集落の生活に馴染めない人が多く長続きしないのが現状です。
この記事では、限界集落の問題と対策、移住する際の注意点を分かりやすくまとめ解説します。
限界集落とは
そもそも限界集落という言葉は知っているけど、どのような状態をそう呼ぶのか、しっかりと理解している人は少ないのではないでしょうか?まず、限界集落には3つの定義があります。
準限界集落
人口の半数以上が55歳を超えている集落
限界集落
人口の半数以上が65歳を超えている集落
危機的限界集落
人口の70%以上が65歳を超えている集落
最近になってテレビなどでも「限界集落」という言葉をよく目にするようになりましたが、まさに日本の少子高齢化と過疎化の最前線にあるのが、この限界集落だと思っています。
では実際に、どれくらいの数の限界集落が存在するのでしょうか?
限界集落の現状
2016年9月に発表された、日本全国にある限界集落(人口の50%以上が65歳以上)の数は、じつに15,568集落にもおよぶことがわかりました。
この調査は今回が4回目で、これまで1999年、2006年、2010年にも実行されており、数年に一度、国土交通省と総務省が限界集落の調査をし、発表しているものです。
2018年8月現在、5度目の調査はまだ実施されておりません。
2010年の調査では、限界集落の数は10,091集落(増加率54%)でしたので、比較すると凄い勢いで増加していることが良くわかります。
また現在、限界集落の数が最も多いとされている地域は、中国圏、九州圏、四国圏の順となっています。
ちなみに、その中から75歳以上が人口の50%以上を占めている危機的限界集落の数は、3,457集落もあることがわかりました。
実は、限界集落になりやすい集落には、以下の共通した特徴があります。
- 人口が50人未満
- 人口が減少が続いている
- 山間地や離島である
- 集落が行き止まりにある
- 役所や役場から10㎞以上離れている
このような場所に住みたいと思う人はなかなか増えず、若者も都会へと移り住んでしまうので、高齢者だけが残ってしまうのです。
限界集落になる原因
限界集落ができる原因には、
- 若者の流出
- 自治体の対策が遅すぎ
- 集落では部外者を受け入れがたい地域性
など、多くの問題があると考えられています。ですが、限界集落が増える一番の理由は、若者の流出であることで間違いありません。
集落で育った若者は仕事を求め、都心へと出て行くしかなかったのです。理由は、限界集落にはこれといった仕事がないからです。
集落での仕事といえば、主に農業です。そのため、集落に残ったところで、就ける仕事といえば家業を継ぐか、役場に就職するくらいしか選択肢がないのです。
役場で働くことができれば、公務員なので集落での生活は保証されますが、地方役場にはそこまで多くの人を雇用するだけの財力はありませんから、どうしても職に溢れる人が出てきてしまいます。
よって、仕事に溢れた若者は農業などの家業を継ぐか、仕事を求めて都心へと出て行くしかありません。さらに、農業などの家業は、収入が低く安定しないため、継ぐ人が年々減少しています。
別の記事の「農地の相続と売買の注意点、固定資産税について」でも触れているように、昭和30年代の全盛期に比べて、今は農業をする人が10分の1にまで減少しています。
天候や災害に左右されたり、安定した収入を得れる保証がない農業を、自分から進んで継ごうと思う若者も減っているでしょうし、家業を継いで欲しいと考える親も減っているのではないでしょうか。
仕事の選択肢さえあれば、そこで暮らしている若者は流出しないですし、外からも移住しやすい環境になるため、限界集落になる要素はありません。
そして、都心から離れている集落が、どれも全て限界集落になるとは限りません。実際、都心から距離があっても施策などを考え、移住者を呼び寄せることに成功した集落も存在します。
しかし、将来の担い手となる若者がいない町が発展することは、まずありません。経済が衰退してお金がまわらなくなると、自治体としてもインフラなどにお金を掛けることができなくなり、どうしても集落は時代から取り残されていくことになります。
限界集落の問題点
限界集落が増えることで様々な問題が発生します。また、限界集落への税金の投入による経済の悪化があります。
近い将来消滅してしまうかもしれない限界集落に、税金を投入するのは無駄使いだという声も一部あり、政府としても限界集落の扱いに困惑しているのが現状です。
税金が投入されないと何が起こるのか?説明するまでもありませんが、インフラ整備がされなくなり、市営や県営バスの運休などが起こるでしょう。そうなると移動手段を持たない高齢者はさらに孤立していくことになります。
そして、当サイトのテーマでもある不動産に関する問題も注目されており、限界集落を離れた若者や子供世帯にも降りかかるので、決して他人事ではありません。
空き家問題
限界集落が増えることによる不動産の問題として空き家問題があげられます。空き家などが増えてしまうと、人の目が届かないことから、犯罪の温床になってしまったりと、周りの環境状態がどんどん悪化してしまいます。
さらに、物件は管理をしていないと日々傷んでいきます。しかし、高齢者ばかりでは管理も行き届かず限界があります。そうなれば集落の価値は余計に下がってしまい、人口減少は加速します。
限界集落が徐々に消滅することで、もともと人が住んでいた家はさらに空き家になってしまいます。そもそも人口が少ないから空き家があっても何も問題ないのでは?と思う人も中にはいますが、そうはいかないのです。
今はすでに集落を離れて都心部で暮らしているとしても、
- 集落を離れていても実家や農地などを相続することを忘れていませんか?
- 相続した実家をどうしますか?
- 「今後も住む予定がないから売ってしまえばいい」と思っていませんか?
- 限界集落となった場所に家を購入する人はいるのでしょうか?
「どうせ田舎だし、固定資産税も安いから無理に売らなくてもいい」と考えている方もいるかもしれませんが、その判断にも注意が必要です。
空き家と判断されれば税の控除は受けられなくなり、今の6倍の固定資産税を支払う可能性があり、場合によっては自治体から危険家屋と判断され、解体命令が出される可能性だってあります。
解体するには百万円単位のお金が必要になります。
「相続してから考えればいいや」というのでは遅すぎます。もし将来的に、限界集落にある実家を相続する可能性があるのでしたら、まだ両親が存命のうちから親や兄弟と将来どうするのかについて、早めにしっかりと話し合っておくことをおすすめします。
耕作放棄地などの増加
空き家が増えるということは、同じように耕作放棄地(遊休農地)や、放置されたままの山林が増加する恐れもあります。
それらの農地や山林を相続した人はどうなるでしょうか。
売却することもできず、人に貸して耕してもらうこともできず、固定資産税だけを払い続けることになります。農地であれば、固定資産税は安いから大丈夫と思っているかもしれませんが、作物を作ってない田んぼや畑は、農地とはみなされません。
つまり、農地として受けていた減税などの恩恵が受けられなくなるということです。
問題は農地だけではなく林業にも同じことが言えます。林業は、農地よりも広い土地を所有しているケースが多く、山林の維持管理には相当な労力と時間を費やさなければならず、当然費用もかかります。
限界集落が増えることは今後も確実視されており、こうした農地や山林の問題も、必然的に起こってしまうのは仕方ないことなのかもしれません。
しかし、いざ自分がその立場になったときにどうするのかを計画しているのと、なにも計画していない状態で相続するのでは、大きく違ってきます。
空き家問題でも解説しましたが、相続してからでは遅いと思いますので、今のうちから対策を考えたり、すでに実行に移しておくようにしてください。
限界集落に移住する際の注意点
いま田舎暮らしが注目を集めていて、限界集落へと移住する人もいます。
移住生活を送る人は定年した高齢者が多いのですが、なかには若い30代や40代の家族が田舎暮らしを求めて移住するケースも珍しくありませんし、限界集落問題を抱える自治体は移住制度に注目して力を入れた取り組みをしてます。
しかしこのスローライフ(田舎暮らし)が必ずしも上手くいくとは限らないし、実際に田舎暮らしを始めてみたけど想像とはずいぶん違っていたという理由で早々に田舎暮らしを止める人もいます。
地元民と移住者のニーズが異なる
田舎暮らしが上手くいかない理由の1つに、「集落を引っ張っていく存在になってほしい!」と願う限界集落の人々と、移住者が思う「静かな場所でのんびりと暮らしたい!」という双方の思惑が違ってることが考えられます。
そもそも田舎暮らしをする人たちというのは、定年退職後などに都心の喧騒から離れ、静かな田舎で誰にも邪魔されることなくゆったりとした生活を送りたいと思っている人たちが大半です。
しかし限界集落などを抱える自治体の理想は、地域などの行事に積極的に参加してもらい、地域の人たちとのコミュニケーションを大事にしてくれる人を求めます。
特に若い世代の人には、集落を引っ張っていく存在になって欲しいと願っています。
ゆっくり自分たちのペースで生活したいからこそ田舎暮らしを選択したのに、いざ引っ越してきてみたら青年会やら消防団やら地域行事の役員などを押しつけられてしまうこともあります。
また、集落の人たちは都心の人たちとの付き合いになれておらず、昔からのやり方を移住者にも求めてしまうこともあります。冠婚葬祭には必ず出席しなければならなかったり、町内行事の炊き出しや高齢世帯の雪おろしなどを頼んでくることもあります。
そうなると、当然予想していたような悠々自適な生活なんて送れるはずがなく、求めていた生活とは違い早々と移住生活をきりあげてしまいます。そのため、その後やってくる移住者にも集落の人たちは厳しい目でみるようになってしまいます。
このような双方のニーズの違いは、移住者の目線に立ったときに、大きなマイナス要因となってしまいます。
生活していく上での問題点がある
都会から移住した人は、限界集落の環境に慣れる必要があります。歩いてすぐにスーパーやコンビニなどの施設がある集落は非常に少なく、車などでの移動が主な移動手段となります。
スーパーへ行くにも車で30分以上かかったりと、このような環境に慣れていない人にはなかなか難しい問題となるでしょう。その他にも、交通の便が整っていなかったり、生活していく中で色々な問題がでてきます。
特に、田舎暮らしをしていく上で重要となる3つの問題点があります。
教育の問題
田舎の学校は、生徒数が減少しており、学校もどんどん統合されています。統合されて学校の場所が変わることによりることによって、今後もますます通学などで不便になっていくことが考えられます。
生徒数が少ないことから人数が必要になる授業(特に体育など)を行うのは、なかなか難しいです。さらに、放課後の部活動も生徒数が多い学校のように充実はしていません。
また、小中学校はあっても、高校がないという集落が多く、義務教育が終わる高校からは、家をでて都心部の高校や大学に進むしかありません。
つまり普通に都心で生活をするよりも、早い段階で我が子と離れて暮らさなければならない可能性が高くなることを覚悟しておく必要があります。
もちろん限界集落には塾などもありませんので、しっかりと勉強させて良い高校や大学に通わせるには、都心部の塾まで通わせ、毎日のように送迎する覚悟も必要でしょう。
医療の問題
限界集落に病院があることは稀で、小さな診療所すらない、というところもたくさんあります。高齢化が進む限界集落だからこそ医療や介護などのサポートが必要なのに、それを満足に受けることができないのは大きな問題点といえるでしょう。
もちろん限界集落であっても緊急時には救急車は来てくれますが、どうしても搬送に時間が掛かります。また、高齢になったときの介護の問題もあります。
ヘルパーなどに来てもらうにしても限界集落ではヘルパーの絶対数が足りていません。そのため十分な介護を受けれるかが不安視されます。
仕事の問題
仕事の問題もあります。先ほど解説したように、主な仕事は農業です。ですが、その農業も収入が安定しないため、多くの移住者は遠くまで通勤している会社員などが多いのが現実です。
しかし、集落にある公共の乗り物などは、料金もとても高く家計にも大きな負担になります。「移住すれば何かしら仕事があるだろう」と思う人もいるようでうすが、集落での仕事の量は本当に限られてきます。
集落から都心まで通勤するには、毎月の費用も多くかかる上に通勤時間も長くなるため、よく考える必要があります。
実際に起きた移住トラブル
実際、自治体などがどのような政策を打っても、集落の住民はなかなか移住者の受け入れには消極的で、外部から若者がくることになれば「何か悪いことでも企んでいるのではないか?」などの疑いの目で見られることも中にはあります。
また、毎月いくらかの給付金が発生する町おこしの協力隊などが集落によっては発足していますが、移住してきた若者に「どうせ税金で生活してるんだろ」などとキツイことをいう住民も実際います。
集まりなどに参加しなければ、周りの住民から仲間外れにされたり、面白くないことがあると、あることないこと噂を立てられたりなど・・・悲しいことにそういった集落なども存在しています。
また、2016年には移住者による大きな事件も発生しています。
都会から移住してきた22人の男女が、集落で大麻のコミュニティを作っていた事件がありました。22人のうち、6組は夫婦だったそうで、中には子どもがいる家庭もありました。
男女たちは、集落にある一軒家にそれぞれ住み、定期的にイベントを開いて大麻を吸っていたそうです。
限界集落は、人口が少ないため、「どんな移住者がくるのか」という住民の不安や心配があるのはもちろんです。しかし、せっかく移住しようといざ行っても、集落によってはよそ者扱いされてしまい、うまくいかなかったケースもよく耳にします。
移住が成功している人の多くは、事前に移住したい集落に何度か足を運び、どのような集落かを見極めて移住に至っています。
まずは、移住したい集落にどのような性格の住民が多いのか、まえもってリサーチすることが、理想の田舎暮らしを実現させる第一歩となるのではないでしょうか。
限界集落を扱ったドラマ
限界集落の問題が社会現象化することで、テレビなどでも限界集落を特集する番組やドラマが目立つようになってきました。ドラマなどは、限界集落が抱える問題や、移住して来た家族などの葛藤をわかりやすく描いているので、面白おかしく限界集落について知ることができます。
最近だとNHKのドラマ「限界集落株式会社」、唐沢寿明さん主演の「ナポレオンの村」などが注目を集めていました。
ナポレオンの村
スーパー公務員という名目で限界集落がある役場に配属になった主人公の唐沢寿明さんが悪戦苦闘しながら限界集落を再起させるストーリーです。実際に日本各地にある限界集落が復興した題材などを取りいれており、限界集落復興のヒントが多数描かれていました。しかしやはり最後は限界集落に暮らす人たちのやる気や情熱というのが大事なんだということが良く伝わる内容に作られており、このドラマをみて田舎暮らしの良さを知った人も多かったのではないでしょうか。
TBS:ナポレオンの村
限界集落株式会社
人口50人ほどの消滅寸前の限界集落、高齢化や過疎化問題を抱える小さな集落へとやってきた一人の男(反町隆史さん)が実家の農家を継いで集落の活性化を描いた物語。主人公の娘が限界集落で家業であった農業を継ぐ決意をし、主人公と一緒になんとか集落の復興を目指しますが抱える問題は深刻でした。そんなとき東京で経営コンサルタントをしていた男性と出会い、これをきっかに3人で農業を通して限界集落の復興へと試行錯誤していく模様が描かれています。
NHK:限界集落株式会社
まとめ
限界集落が抱える問題はとても深刻です。
交通機関の撤退、医療や介護問題、さらには教育問題と、普通に生活していくだけでも数多くの問題があります。そして、限界集落で一番問題視されているのが若者の流出です。
限界集落では仕事がないため、若者は職を求めて都心へと出ていくしかありません。集落の将来の担い手たちがどんどん集落を出ていくのですから、あとは消滅するのを待つしかありません。
実際に過去の調査結果から、限界集落の数が増えては消滅している集落が沢山あるのが現状です。今後も限界集落の数は増え続けていくでしょう。
自治体も、最初は限界集落をなんとかしようと対策を打ち出していましたが、最近は税金の無駄使いという声も増えており、どうしたら良いのか二の足を踏んでいる状態です。
限界集落は、決して山間部などの一部の地域の問題ではなく、今後同じ問題を日本全国の地方都市が抱えていくことになります。
限界集落の問題を一つずつ解決するためには、まずはこのような集落が私たちの日本に沢山存在するということを多くの人に知ってもらうことが大切だと思います。
また、決して一部の特別な地域の出来事だととらえず、地方に住む人たちが将来の空き家問題や農地問題について考える良い機会にしてください。