共有名義の家や土地の売却は、一般的に名義人全員の同意が必要となるため簡単にいかないケースが多いです。
さらに相続や離婚の問題も加わってくるので、話がややこしくなりがちです。
この記事では、共有名義の不動産を売却するための5つの方法を分かりやすく解説します。
想定されるトラブルや売却の手順についてもまとめているので、共有名義の不動産売却で困っている人は参考にしてください。
共有名義の不動産を売却する方法
共有名義となっている不動産の場合、売却方法が少し複雑になります。
一番楽なのは、共有名義人全員が売却に賛同しているケースです。この場合だと売却するにあたり、共有名義だからという不利はほとんど考えなくて大丈夫です。
しかし共有名義人の1人でも売却に反対する人がいれば、売却活動はかなり難航することが予想されます。
そうなった場合の対策も含め、共有名義不動産の売却パターンをいくつか紹介しておきます。
自分の持ち分のみを売却する
共有名義のまま自分の持分だけを売却するは問題はありませんが、現実問題として、そのような土地や不動産を買ってくれる人がいるでしょうか?
大きな農地だと分筆して自分の持分だけ売却するケースもありますが、中古住宅や中古マンションで、自分の持分だけを売却するというのは現実的でありませんし、自分の持ち分だけ売却する人はほぼいないと思います。
もし買ってくれる人がいたとしても、ちょっと利権が複雑すぎるので、相場よりも相当安く買い叩かれる可能性が高いです。
持ち分割合で分筆して売却する
戸建てやマンションなどの建物があるのでしたら現実的ではありませんが、土地だけの場合だと自分の持分だけを分筆して売却するという方法もあります。
例えば120坪の畑を相続し、兄弟3人の名義になっていたとします。
その場合、自分の相続分である3分の1(40坪)だけを分筆して売却してしまえばいいのです。
ただし問題がいくつかあります。
分筆登記する場合、その共有名義人全員の承諾がなければ、例え自分の分だとしても分筆することはできません。
それに分筆して売却する以上は、それ相応の広さの土地でなければ買い手を探すのも困難でしょう。もう一つの問題が測量問題です。
土地を分筆するには、しっかりとした測量を実施しなければいけません。
土地の所有者はもちろん、道路に接しているのであれば、その道路を管理している自治体にも立会いをしてもらう必要があります。
そうなると時間や手間もかかりますし、測量を実施するための費用もかかります。
分筆して売却を希望するのであれば少なくても30~50万ほどの測量と登記費用、そして最低でも80坪以上の土地であることが前提だと考えておきましょう。
共有者に持ち分を買取してもらう
売却することに反対している共有名義人に自分の持分を買取りしてもらう方法もあります。
どうしても共有者の賛同が得られないのであれば、この方法をおすすめしたいと思います。
理由は、この方法であれば分筆する必要もありませんし、新たに買主を探す手間も省くことができ、比較的短期間で終了することができるからです。
ただ問題となるのが譲渡とする際の価格、そして買取る側の資金力です。基本的に現金での買取りとなるケースが多く、それに見合うだけのお金が必要です。
評価額1,500万円の土地で、名義人が2人であれば750万円を用意してもらわなければなりません。
それだけのお金が相手にあることが前提の方法となります。
共有名義から単独名義に変更する
共有名義の不動産を単独名義にして売却するという方法もあります。ただこの方法は問題も多く、あまりおすすめできません。
例えば3人の共有名義となっている土地を単独名義にして売却するとしましょう。この場合、単独名義となる人が他の所有者から持分を買取らなければなりません。
どうせ名義を単独にするためだけの形式的なものだから、買取価格はいくらでもいいよ!と言ってしまいがちですが、ここに落とし穴があります。
もしタダ同然はもちろん、相場とかけ離れた価格での取引と判断されれば、単独名義になった人が、他の所有者から土地を譲渡されたと判断されてしまう可能性があるのです。譲渡と判断されれば、その土地の評価額に対して「贈与税」が発生します。
相続であれば、多少の資産価値があっても控除などで対応できるのですが、ただの贈与となれば話が違ってきます。
かなり高額な贈与税を徴収されることを覚悟しておかなければなりません。
不動産や税に対しての知識があれば、この方法でも上手く売却できるかもしれませんが、しかし一歩間違えると高額な税金を徴収されてしまう恐れがあるので、この方法での売却はあまりおすすめできません。
共有名義のまま売却して金額を分配する
共有名義不動産の一般的な売却方法となるのが、こちらのパターンだと思います。共有名義のまま売却し、その売却代金を共有名義人で分配する方法です。
売却代金を不動産の持分割合に応じて分配すれば揉めることもありません。
ただ離婚による売却の場合、単純に持分割合で分配するというやり方は通用しませんので、弁護士などの専門家にアドバイスをもらうのが良いでしょう。
繰り返しになりますが共有名義人全員の同意が必要になりますので、名義人のうち1人でも売却に反対している人がいるのであれば、この方法での売却は難しくなります。
売却する際に必要なもの
共有名義でも単独名義でも売却時に準備しておく書類に違いはありません。
ただ名義人全員の書類を準備しなければならないので、多少手間はかかると思います。共有名義不動産の売却で必要となる書類は以下の3つです。
- 登記済権利証または登記識別情報
- 土地測量図と境界確認書
- 名義人全員分の確認書類
登記済権利証または登記識別情報
一般的にいう「権利証」のことです。2006年に制度が変更となり、それまで「登記済権利証」という名称だったのですが、2006年以降は「登記識別情報」になっています。
現在の登記識別情報は12桁のパスワードが書かれているだけなのですが、不動産売買時には欠かせない書類なので、しっかりと保管管理しておくようにしましょう。
権利証を自宅に保管しておくのは怖いから、自分も登記識別情報に変更して欲しい。と思う人もいるかもしれませんが、変更のみの対応はしてくれません。
また、登記済権利証や登記識別情報を紛失してしまったという人もいるでしょう。
しかし、これらの書類は紛失したからといって簡単に再発行してもらえるようなものではありません。万が一紛失してしまった場合は、以下の方法で不動産権利の確認をすることができます。
- 事前通知制度
- 弁護士や司法書士による本人確認面談
- 公証人による本人確認面談
一般的には「公証人による本人確認面談」を選択するケースが多いようです。
ただし、手続きに時間もかかりますし、手間もかかりますので、もし紛失している場合は、早めに行動しておくように心がけましょう。
土地測量図と境界確認書
土地の測量図と隣地との境界を明確にするための書類ですので、戸建て住宅や土地の売却時に必要で、マンションの売却時には不要となります。
その不動産を購入したときに作成している書類があると思いますが、もし紛失してしまっていたり、作成したのかが曖昧であるなら、売却にあたり再度作成しておくことをおすすめします。
ただし隣地との境界を明確にするためには、隣地所有者の立会いも必要になりますし、確定測量をしなければならないこともあります。
よって調整に手間がかかったり、測量費用が予想しているよりも高くなってしまう可能性があります。
名義人全員分の確認書類
当然のことですが、売主本人の身分を確認するための書類を用意しなければなりません。
本人確認ができる「運転免許証」、「実印と印鑑証明書」、「住民票」を準備しておく必要がありますが、共有名義の不動産の場合は名義人全員分の書類が必要になります。
一人でも書類に不備があれば売買契約そのものが締結できず、先送りになってしまいますので、契約日当日ではなく、遅くとも契約日の数日前にはすべて揃えてチェックしておいてください。
とくに契約日として、仕事が休みの土日の週末を希望する買主も多いので、そうなると住民票や印鑑証明を当日発行してもらうことはできないので注意してください。
契約時、名義人全員が同席できない場合
契約時には名義人全員の同席が必要です。
どうしても同席できない名義人がいる場合は、代表者が欠席している名義人の代理人となることもできますが、その場合は委任状を作成しておく必要があります。
しかしただでさえ敬遠されがちな共有名義不動産の売買ですので、買主側の心象を良くするためにも、なるべくなら名義人全員で契約に立ち合うことをおすすめします。
共有名義の不動産売却が問題となるケース
不動産売却で共有名義が問題となるケースのほとんどが「相続」か「離婚」です。
今回は「相続」と「離婚」による共有名義不動産の売却について、どのような問題点が発生するのか、例をあげながら解説していきたいと思います。
相続で売却する場合
共有名義の家や土地の売買で多いのが、親から相続したパターンです。
両親が他界してしまっている場合、残された家や土地などは遺書で指示されていない限り、法律で決められた「法定相続分」を兄弟全員で分配することになります。
仮に3人兄弟を例に考えてみます。長男と次男は家庭をもち、それぞれ独立しており、末っ子だけが実家に住んでいるケースです。
この場合、長男と次男は実家を売却し、その代金を分配することを望むと思いますが、実家で暮らしていた末っ子は実家の売却には反対で、そのまま維持することを希望するかもしれません。
そうなると名義人全員の賛同が得られず、売却が難しくなります。
本来、実家に住み続ける末っ子が長男と次男に相続分相当を現金で支払い買取るというのが理想です。
しかし、多額の現金が必要になるので、お金を用意できるかがポイントになります。
そしてもう1つ。相続した実家は多くの場合、築年数が経過しておりすぐに買い手がみつかるのか?という不安がつきものです。
相続した実家の売却問題については、以下のページで詳しく解説していますので参照ください。
離婚で売却する場合
共有不動産の売却が増えているのが、離婚による売却問題です。
最近は夫婦共働きの世帯も多く、住宅ローンを借りるときに夫婦の収入を合算しているケースが目立ちます。
この場合、夫の名義だけでなく、妻も共有名義人となっていることが多く、夫婦が離婚する際には共有名義問題が発生する可能性が高くなります。
よくあるのがお互いの意見が異なるケースです。夫は離婚後も自分が住宅ローンを払い続けるので、この家に住むと主張します。
一方の妻の方は、売却して住宅ローンも全額返済してすっきり離婚したいと希望しています。
このように夫婦の意見が分かれた場合は、話し合いが平行線のまま進まなくなってしまいます。離婚でよくあるのが相手を困らせようと、わざと違う意見を言うケースです。
そうすることで、話がまとまらず離婚がズルズルと延期になってしまい、当然不動産の売却もまとまらないでしょう。
また、住宅ローンの問題も考えなければならないのが離婚で売却する際の特徴です。
住宅ローンの債務が残っている状態で離婚することが多く、共有名義の場合は住宅ローンも夫婦で借りているはずです。
仮に不動産を売却せずに夫がローンを払い続ける家に妻が住み続ける場合、離婚後ずっと住宅ローンの返済が終わるまで滞納や不払いの不安を抱えておかなければなりません。
こうした問題を考えると、やはり離婚時には共有名義の不動産は売却してしまい、売却代金で住宅ローンの残債務を一括返済してしまうのが理想の形だと思います。
まとめ
共有名義となっている不動産を売却するためには、まず所有者全員の意見をまとめることが何よりも優先すべきことです。
仮に5人の名義になっている不動産でも、たった1人が売却に反対するだけで話しはまとまりません。
まずは共有名義となっている所有者全員が納得できるまで、しっかりと話し合いをおこない、方向性が決まってから不動産会社などに相談をするようにしましょう。
とくに相続した不動産については、その後どうするかという意見が分かれやすくなっています。
長男だからという理由だけで勝手に話しをすすめて、他の兄弟たちには事後報告なんてことは絶対にやってはいけません。