住まいに関するキーワードの一つとして「脱LDK」という言葉があります。
新しい住まいのあり方、新しい間取りをイメージさせますが、実はそれほど新しい考え方ではありません。
しかし近年、住まいの性能や技術の向上、提案の多様化によって、新「脱LDK」とも言うべき動きが見られるようになっています。
今回の記事では、積水ハウスの「イズ・ロイエ ファミリースイート」を例に、その動きを詳しく紹介します。
イズ・ロイエ ファミリースイートの特徴
「イズ・ロイエ ファミリースイート」は、2018年10月に発売された積水ハウスにおける最新の商品の一つです。
以下で、簡単にその特徴を整理しておきます。
- 仕切りの少ない最大7mスパンの大空間リビングが可能
- 「超高断熱アルミ樹脂複合サッシ」で断熱性能を強化
- 大空間でもZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を実現
- これらによるLDK機能の充実
積水ハウスの独自研究機関「住生活研究所」の成果によるものです。
同研究所は、「住めば住むほど幸せ住まい」というコンセプトで研究活動を行っており、その成果を反映した第一弾商品という位置付けです。
研究所の研究は例えば以下のようなものがあります。
下の図(以下、図と写真は積水ハウス提供)はLDKで最も重視されていることを調べたもので、「家族の団らん」がトップとなっています。
もう一つの図はリビングにおいて家族がどのように過ごしているかについて調べたもの。多様な過ごし方があることがわかります。
「イズ・ロイエ ファミリースイート」はこうした調査を元に、LDKの快適性を損なわずに、家族の団らんというLDKの本来の用途はもちろん、家族それぞれが好きなことをして過ごせるようにした設計提案を採り入れています。
なお、同社に存在する豊富な経験を持つ設計士集団「チーフアーキテクト」が、顧客のニーズやライフスタイルに合わせた設計提案を行う自由設計商品です。
実際の間取り例
さて、皆さんは普段の生活の中で、LDKにいて「自分の居場所がないなぁ」と感じた経験はないでしょうか。
例えば一般的な住宅の場合、旦那さんがソファーで寝転がっていたら、奥さんの居場所は必然的にダイニングテーブルになってしまう、子どもたちはそれぞれの個室で過ごしてしまう、というような感じです。
あるいは、子どもたちがソファーに座ってテレビゲームに熱中しているとします。この場合も夫婦の居場所はリビングではなくなってしまいます。
これらは、これまでの住まいが家族の居場所がリビング、中でもソファーを中心に考えられていたからです。
そうではなく、LDKに家族の居場所を複数箇所作りましょう、というのが「イズ・ロイエ ファミリースイート」で提案されている間取りの考え方です。
では、具体的にその事例を見てみましょう。
上の写真は、リビングを床から一段下げ、通常よりも「こもり感」を高めた事例です。
ちなみに、このようなリビングとダイニングキッチンの間にちょっとした仕切りや段差があると、それぞれのスペースで過ごす家族との間に適度な距離感が生まれ、過ごしやすくなるという効果も生じます。
下の写真はリビングとテラスを一続きにした事例です。こんな間取りであれば、リビングのソファーのほか、テラスにも居場所ができます。
ガーデニングの話題で夫婦や子どもたちとのコミュニケーションが育まれそうです。
特にこの事例では、リビングとテラスがフルフラットの大開口でつながり、床も土間で統一されています。
そのため、室内にいながら外にいるような気持ちの良い感覚を体験できると思います。
特に延べ床面積30~40㎡のコンパクトなプランでは、LDKの質を向上させるために有効なスタイルの一つと言えるのではないでしょうか。
脱LDKの考え方
では、ここからは改めて「脱LDK」の観点から見ていきましょう。
そもそもLDKは戦後、大量供給された公団住宅に標準採用された「DK」に起源があります。
その後、「L」が加わることで、調理と食事とくつろぎ(団らん)の場が一体となり、LDKは日本の住まいに広がりました。
誕生から半世紀以上が経過しているわけです。その間に、人々のライフスタイルや価値観は大きく変わり、それに合わせてLDKも徐々にかたちを変えてきました。
その中で発生したのが「脱LDK」という考え方です。
誕生の経緯や定義は定かではありませんが、LDKの普及当初から実は存在していたようです。
その担い手は、画一的な住まいや空間づくりに疑問を持った、野心的な建築家だったと思われます。
脱LDKのポイント
脱LDKのイメージは以下のようなものです。
- LDKを含めた空間を仕切らない
- 家族の数で部屋数を決めない
- 各居室の役割を決めない
また、LDKという言葉は一方で、不動産広告などで「○LDK」などとその住宅がどんな建物か、具体的には建物の規模や部屋数をイメージさせるためにも使われてきました。
脱LDKの設計手法は、そんな概念から脱却し、住宅の中に極力間仕切りを設けず、空間の用途をファジーにしたものでした。
「イズ・ロイエ ファミリースイート」の空間提案もそのあたりは同様で、その意味では決して新しい空間づくりの手法ではありません。
違いは居住空間の快適さ、機能性の追求にあります。というのも、かつての脱LDK住宅は質的に決して良いものではなかったからです。
これは脱LDK住宅の普及当初は、高い断熱性能や省エネ性能の仕様がなく、それらへの配慮もあまり重視されていなかったからです。
また、収納や家事動線などの工夫も行き届いていたとは言えませんでした。
つまり、デザイン性を優先し、性能や機能の追求が疎かになっていたという側面があったのです(中には、自然エネルギーを積極的に活用するなど、優れた設計思想による建物もあったことを付記しておきます)。
「イズ・ロイエ ファミリースイート」は、前述したように「超高断熱アルミ樹脂複合サッシ」が採用されており、これにより建物の2面に大開口が設けられています。
これは同サッシが壁並の断熱性能を有するから可能なのです。
そして、チーフアーキテクトと呼ばれる高度な設計力を有する人たちが関わることで、開放感を感じさせる高いデザイン性と、機能性や快適性を両立する空間づくりを可能にしているわけです。
ですので、このような建物を建てる動きを、筆者は従来型の脱LDKとは区別するために、新「脱LDK」と表現するようにしています。
脱LDKは省エネ住宅としても人気
ところで、このようなLDKがある住まいであれば、当然のこととして家族全員があつまります。それによるメリットは、家族が仲良く暮らせること以外にもあり、その一つが省エネ性・経済性の効果です。
LDKに人が集中することは、逆にいえば家族が個室で過ごす時間が減るわけです。
つまり、エアコンや照明などの使用がLDKに集中し、そのため省エネになり、さらに経済性も高まるという理屈です。
省エネ・経済性の追求は現在の住まいづくりには欠かせない視点。「イズ・ロイエ ファミリースイート」の設計の考え方には当然、そんな配慮もされているわけです。
共働き家族が増加している社会状況への対応も、この商品には見られます。共働き家族は、仕事をする夫婦を中心に忙しく毎日を過ごしており、そのため自分の時間をとても大切にする傾向があります。
そのため、家族それぞれが適度に距離感を保ちながら生活できるLDKの存在が求められ、そのこともこの商品が登場した背景の一つと言えるのではないでしょうか。
積水ハウスだけでなく、新「脱LDK」的な空間提案は他のハウスメーカーなどにも見られます。
LDKの質に注目することは、満足度の高い住まいづくりへのポイントになると思います。